急接近-10
「普段、休みの時は友達と遊ぶ時もありますけど、たいてい出かけないで家にいる事が多いですねー。友達もみんな彼氏がいるから、たまにしか遊びませんけど。」
「そうなの?俺も同じかなー。」
「そうなんですね。休みの日とか、ゆっくりしたいですよねー。ゆっくり起きて午前中とかダラダラとテレビ観ながら。」
「そうそう。サンジャポ観ながらダラダラしてる、俺も。」
「アッコにおまかせまで!」
「ハハハ、そうだなね、観ちゃう観ちゃう。」
お互いだいぶ打ち解けた。いい具合に肩から力が抜けてリラックスしながら食後の会話を楽しんでいた。お互いアパート暮らし、共通点は多かった。
(萌香ちゃん、やっぱ彼氏いないみたいだな…。)
それを確信し嬉しくなる。かと言ってすぐに告白する勇気はないが、まだ付き合える可能性はある事が分かっただけでも安心した。
そんな彰だが、萌香も少し躊躇った後に、思い切って彰に聞いた。
「井上さん、彼女さんとかいるんですか…?」
「え…?い、いないよ…。俺なんか…」
萌香からそんな質問が来るとは思わなかった彰は動揺する。
「そうなんですね。」
萌香はホッとしたような表情を浮かべたような気がした。そして少し沈黙し、何かを考え込んだ様子を見せた後、勇気を振り絞って言った。
「あの…、今から井上さんのアパートに行ってもいいですか…?」
「えっ!?」
この上ないぐらいに顔を真っ赤にして聞いて来た萌香に、驚きを隠せない彰。
「だ、ダメ…ですか…?」
「だ、ダメじゃないけど…、」
「迷惑ですか…?」
「いや、全然!」
いきなりの事で混乱したが、萌香が自らアパートに来たいと言う、信じられない事が向こうから歩いて来たのだ、心の準備も何の準備もしていないが、こんな大チャンスを逃したら2度と来ない、そう思った。
「ち、散らかってるけど、いいの?」
不安げな顔が一気に明るくなる。
「はい!」
「(き、気が変わらないうちに…!)じ、じゃあ、来る?」
「はい♪」
満面の笑みを浮かべた萌香に彰は頭をかいて照れた。
「じ、じゃあ行こっか…」
「はい♪」
席を立ち、萌香が会計を済ませ、彩乃と何やら話しているのを入り口で眺めていた。
「ご馳走さまでした。」
「いえいえ♪」
2人は店を後にして駅に向かう。美味しかったハンバーグの話で盛り上がりながらも、彰は(今から萌香ちゃんが部屋に来る…!)、そればかりを考えているのであった。