「向こう側」第四話-1
クローゼットを開けてみる。
何もないだろうと思っていたがそこにはたくさんの服があった。どれもスグルのサイズよりは大きかった。
俺のためってわけじゃないみたいだな…じゃあ誰の…
ここでスグルはこの部屋の違和感が少しずつ表面に現れてくる感覚を覚えた。
そして確かな形を形成した。
この部屋は来客用なんかじゃない、使うつもりなんてなかった、いや、使いたくなかったんだ
そう思ったスグルは部屋全体を見渡した。
この部屋に入った時は気がつかなかったのだがきれいな部屋なのにこの机の上だけ乱雑に物が置かれている。
文字が読めないため机の上にある文書がどういうものかスグルにはわからなかったが、ひとつだけ確かなことがあった。
この部屋…おそらく前に使ってた人の所持品がそのままになってる
そう思ったスグルは、何かおもしろい物があるかもしれないと思い、次にその机の引き出しの中を調べた。
机の引き出しも机の上と同じように、何か書いてある紙がたくさんあり、それらの紙を手に持って調べていると一枚の紙がひらりと床に落ちた。
それは一枚の写真だった。
その写真には六人の人が写っている。
スグルはその写真の人達の顔を一通りながめた。
(これ…もしかしてバッジさんかな…じゃあ隣にいるのがアーリアムさんで、ヴェラマージさんにマリーさんかな…)
これらの人は今より若く見える。
この部屋は七年前から使ってないというバッジの言葉から、この写真が撮られてから少なくとも七年は経っているのだろうとスグルは思った。
しかしスグルがすぐに認識できた四人の隣に、スグルの知らない幸せそうに微笑みながら肩を寄せあっている男と女がいる。
おそらくこの二人は恋人同士なのだろう。
スグルはその女性のほうに見覚えがあることに気づいた。
(この人…あのミスズさん!?)
自分の目を疑ったが、確かにそれは何年か前のミスズである。
だが、外見はそうでも明らかに雰囲気が今とは違う。
まして笑っているだなんて、今のミスズからは想像もつかないことである。
スグルはしはらくの間その写真をただぼんやりと見ていた。
すると、
ドンドン!
「スグル、入ってもいいか?」
ドアのノックの音とともに聞こえてきたのはバッジの声だ。
スグルは突然の来訪者に慌てふためいて、別にこれといって悪いことはしていないのに、とっさに写真をポケットの中にしまい込んだ。
「は、はい!大丈夫ですよ。何か用ですか?」
ガチャリと音がしてバッジが中に入ってきた。
「今からちょっと出かけるつもりだなんだが…すぐに出られるか?」
「俺も一緒に行っていいんですか?」
「ああ、じぃさんがスグルも連れていくべきだっていうからな。おまえも外の空気を吸いたいだろ?」
スグルは準備といっても特にすることもないので、部屋から出ていくバッジの後にすぐについていった。