「向こう側」第四話-2
二人はあのマンホールを通り抜けて外にでた。
「いまからどこへ行くんですか?」
「うーん、説明すんのめんどいんだよな。まぁ行けばわかるって」
淡い光に照らされた人気のない裏路地を、バッジはするりするりと進んでいく。
やがて大きな通りに出た。
裏路地に比べて多少は賑わっているが、この通りの広さに比べると人影はまばらである。
「あんまり目立たないようにしねーとな。一応俺は犯罪者扱いされてるからな」
そう言うとバッジはスグルを自分のほうへ寄せて、壁づたいに歩きだした。
スグルは通り過ぎる人々の表情が、どこか寂しげであることに気づいた。
しばらく歩くとバッジが足を止めた。
「着いたぞ、ここだ」
何かのお店のようだ。もともとそういうデザインなのか、たんに老朽化しているだけなのか、看板が斜めに傾いている。
カラン コロン カラン
扉が心地よい音色を奏で、店に入る。
中にいたのは眼鏡をかけてすこしヒゲを生やした五十代ぐらいの男一人だった。
「いらっしゃい…ってなんだ、おまえさんか」
その男は入ってきたのがバッジだとわかると、接客用のにこやかな顔からすぐにしかめっ面になった。
「どう?商売繁盛してる?」
バッジが意気揚々と話しかける。
「ここに来るのはガラドの連中とおまえさんぐらいだ。昔みたいに普通の客はもうあまり来ねぇよ」
手に持っているもう一つの眼鏡をせわしなく磨きながら、その男が答える。
「おまえさんとこのヴェラマージのじぃさんは元気にしてるか?」
「あぁ、元気が有り余ってるって感じだ。ありゃ長生きするぜ」
バッジとその男が話している間、スグルはこの店をぐるりと見回した。
様々な色がついている小さなチップみたいなものが、連なって壁に掛かっている。
バッジと男の間にあるショーケースには、マグカップにそのチップが埋め込まれているものなどがあった。
装飾品を売っている店なのだろうか。
キラキラとしていてきれいだが、すこし派手である。
親戚のおばさんにプレゼントしたら喜びそうだな、とスグルは思った。
「それはそうと…そこの小僧はなんだ?ガラドに拉致されそうになったガキか?」
スグルの存在に気づき、男は訝しげな表情をした。