第十二章 二度目の訪問(画像付)-8
『私達、別れませんっ』
血管が浮き出る程興奮している父の顔から視線をはずす事も無く、香奈子は宣言した。
『もしも、許して頂けなければ家を出ます』
淡々と話す娘の口調に、父は並々ならぬ決意を感じたらしい。
長い沈黙の後、口を開いた。
『わかった・・・許してやろう・・・』
その言葉に一番衝撃を受けたのは晴彦であった。
(ま、まさか・・・)
こんなにあっさりと、結婚の許可がおりるとは考えてもいなかったのだ。
『それで・・・大学はどうするつもりだ?』
『行きません・・・家で・・家で子供を育てます』
『そうか・・・じゃあ、晴彦君は私の会社に入社しろ』
『で、でも・・・まだ卒業まで・・・』
『中退すればいいじゃないか、学部は出てるんだし』
ギロリと睨み付けた。
『それとも何だ・・・
無収入で香奈子達を養うつもりだったのか?』
『い、いいえ・・・・』
実は何も考えてはいなかった、とは言えない。
『じゃあ、私の会社にくるんだな?』
有無を言わせぬ口調だった。
『は、はい・・・』
(ええっ・・な、何だよ・・・これ・・・?)
いつの間にか、人生の、これからの晴彦の生活が一気に決められていこうとしている。
(フンッ・・・)
おろおろする婿の態度や表情に、香奈子の父は鼻を膨らませた。
(男のくせに情けない奴だ・・・・)
『言っとくがな、
娘の婿だからと言って甘やかしたりはしないからな』
(この際、徹底的に釘を刺しておかねばな・・・)
『いや、むしろ婿だからこそ、私の後継者にふさわしい男になってもらわなくては駄目だ』
晴彦はオドオドした視線を香奈子に何度も投げていた。
だが少女は動じず、まるで母のように夫になる年上の男に薄い笑みを返していた。
(か、香奈子・・・)
それは男を完全に自分のものにした勝利の笑みのように晴彦は思えるのだった。