妻を他人に (4) 変化-2
「Zくん……………………好き……………………」
夫の耳元でそう囁いた瞬間、思わずぷぷぷと吹き出してしまった。
「もぉーーやだぁ! 何言わせてるの? 恥ずかしすぎる!」
「いい! ゆき……! もう一度……!」
「ちょっとおちんちんピクピクさせないで……んん……っ」
夫のペニスがひくつき、私のあそこの柔らかな場所を圧迫してくる。夫の背中に回した腕に力が入る。
「ゆき……俺もう変な気持ちになっちゃってるよ」
「もう……」
「もう少し聞かせて……」
「えぇ? また?」
「うん」
「こんなこと言っちゃって、ほんとにいいの?」
「うん、いい」
今日はなにやら私にいろいろ言わせようとしてくる夫。そうやって私の反応を楽しんでいるのだ。
仕方ないので、夫の耳元でもう一度囁いてやる。
「……Zくん……大好き…………」
「あぁゆき……!」
「ぁん……っん……んん……っ」
すごい。これだけで興奮しちゃうんだ。でも実は私も夫と同じ。少し変な気持ちになっている。
「んん……恥ずかしいよ。パパ今日はどうしたの……?」
「Zが言ってたんだ。マゾっけのある女性は、いやらしいことを言わせると興奮してくれますよって」
当たってる。マゾ体質まで、どうしてバレてるのかな。
それにしてもパパ。そういうアドバイス、そのまま奥さんに伝えちゃう?
「んん……興奮してるのはパパじゃん」
「ゆきはそうでもない?」
「ひみつ……うふふ……」
「うぅ……ゆきぃ……」
はぐらかしてはみたが、私だって興奮している。
恥ずかしいと言いつつ、いや、恥ずかしいからこそ、最近の私は夫との行為を楽しんでいる。
興奮した夫が、こうして腰を強く打ち付けてくれるから。
一生懸命で可愛い。そして気持ちいい。
パンパンパンパンパンパンパンパン、パンパンパンパンパンパンパンパン――。
「ん……っんあ……んぁ……っん……ぁあ……っん……ぁ……っんぁ……ん……っん……んぁ……っ」
やだ。私変な声が出ちゃってる。
パパの前で出したことのないような声。
なんで。
ゆきはこれまで、夫とのセックスでいわゆる「喘ぎ声」を発したことがなかった。
そこまで追い込まれたこともなかったし、行為を盛り上げるため演技してあげるというのも、あまりに性に未熟な夫の前ではどうにも憚られた。
しかし今は違う。
ゆきは夫に言わされた自分の言葉で、たしかに興奮してしまっていた。
パンパンパンパンパンパンパンパン、パンパンパンパンパンパンパンパン――。
「ぁあ……っん……あ……っんぁ……ん……っん……んぁ……っあ……っんあ……ぁん……っん……」
ああ、頭がぽやんとする。
声、バレちゃうかな。
恥ずかしいな。
でも止まらない。
もっとしてって思っちゃう――。
*
ペニスを乱暴に抜き挿ししながら気がついた。
ゆきの反応もいつもと少し違う。
パンパンパンパンパンパンパンパン、パンパンパンパンパンパンパンパン――。
「ぁん……ぁっん……ぁあ……んぁ……んん……ん……んぁ……っあん……あ……ん……ぁあ……」
いつもなら挿入中も少し息を荒くするだけ、吐息がわずかに色っぽい熱を帯びるだけだったゆきの様子がおかしい。
なんだろう。このゆきの反応は。
吐息と一緒になんだか切羽詰まった声を発している。
「……あっん……ぁん……っんぁ……ぁん……っんぁ……あん……っん……あん、ん……っん……んん……っ」
「ゆきすごいよ。なんだかエッチだよ、可愛いよ……ゆきは誰のチンポで感じてるの?」
「……ん、んんぁ………………Zくん……………………ぁんっ」
甲高く、悲鳴に近い声。
これがいわゆる「喘ぎ声」というものだろうか。これまでの人生で私が喘ぎ声を聞いたことのある女性は、麗美ただひとり。無論、「私」に向けられた喘ぎ声としては人生初。いや、これも形式上はZとのセックスでの喘ぎ声ということになるのか。少し悲しくなったが、それ以上に興奮してしまう。
「だ、誰に挿れられてるの?」
「ぁん……Zくん…………ぁん……ぁっ……ぁん……んん……ぁ、ぁあ……っ」
他の男の名を口にするたび、妻の声のトーンが上がっていく。
笑みを含んでいた、さきほどまでの余裕はない。
「ゆきは今誰とセックスしてるの?」
「Zくん…………ぁあ、んん……っ」
「誰の何が気持ちいいの?」
「Zくんのおちんちんが……気持ちいい……ぁああ……っ」
ああ、なんというはしたない発言。
「Zくん」も「おちんちん」も「気持ちいい」も、それぞれ個別にならゆきの口から発せられたことはある。しかしこの三つがひとつの文章の中に同時に存在すると、それはたちまち破廉恥な響きを帯びる。人妻が決して吐いてはならぬはずの、背徳感に満ちたセリフ。それをこのどう見ても清楚で可愛らしい人妻が口にしているという事実。