続・風祭〜reunion〜-9
――――――山荘に貯蔵された食材で仕上げられた三重子の食事は小谷からの称賛を得た。
三重子としては大した手間もかけず豪華なものではないと自覚しており、結婚中にいつも通りに出していた内容の延長だったのだが、
小谷からの自然な感想を聞くと素直に嬉しくなる。
三重子の食事による効果なのか、食後の片付けを終えてからリビングでの雑談を再開した際は食前の時よりも場は和やかになり、
アルコールが入っていないのに2人の口は幾らか滑らかになっていた。
互いの趣味や家族親族の近況について話が進んでいく頃、
話題が最近の冠婚葬祭にまで及んだ時だった。
「・・・・あとは家内の一周忌も滞りなく済ませることもでき、そちらも私の中では一区切りとなりました」
「奥様の・・・・」
三重子の脳裏に、いつぞや三重子の元を訪れて個人的なこと、特に結婚相手の佐和木に関することを強引に聞こうとした小谷の妻の和子の顔が甦る。
結果的に過去の事件の疑惑にまで関心を示したことで毒殺されるという不運に見舞われたが、
三重子には和子に対する純粋な不快感と共に三重子個人に対しての敵意を感じた記憶があった。
直接対面したのは1度だけなので、その敵意の理由を確認することもできないまま今日に至ったわけなのだが。
「今にして思えば・・・・和子は、亡き家内は、私が三重子さんに惹かれていたのを薄々察していたんでしょうね」
「え・・・・・」
三重子の脳裏に残る小谷の亡妻の顔と言葉。
あの時は本人生来のものや、彼女が三重子の過去を調べていた過程という特性が関係していたのだと思っていたが、こうして時間が経ってみると小谷自身の指摘の通り、夫が惹かれる同性に対する妻の反発が根底にあったのかもしれない。
それは以前麻子から指摘された通り、小谷は三重子を初めて見た時から、三重子の想像以上に強い思慕の情を秘め続けたことを意味することに他ならない。
さりげない小谷の“惹かれている”という言葉には、そうした小谷の心の軌跡が含まれていたようにも思えた。