続・風祭〜reunion〜-6
リビングのソファに腰を下ろした小谷にお茶を出した後、三重子は先程渡された花束を手慣れた手付きで花瓶に生けていく。
そんな彼女の所作を小谷はお茶を啜りながら感慨深い面持ちで眺めていた。
花瓶を窓際の円卓の上に置いてみると、花の多彩な色彩のお陰で部屋の雰囲気は途端に明るくなる。
「今日は予定よりも遅くなってしまいました。朝方に済ませる案件処理に若干手間取った上、ここに至る道筋で渋滞があったものですから・・・・」
三重子が正面のソファに座るのを待って、小谷が深々と頭を下げる。
「外の天気も何だか荒れ模様になってきましたから・・・・」
「本当にご心配をおかけしました。幸いにも本格的に天気が変わる前にたどり着くことができて良かったですよ」
対面で来訪者と話すのは一昨日の麻子以来だが、最近1人で過ごすことが多かった三重子にはやはり電話とは違う形でお喋りするのは本当に新鮮だった。
一方で話す相手が自分を思ってくれている(と娘の麻子が言及した)小谷であることに、楽しさと同時に緊張も感じていた。
「それにしても・・・・・」
ここで小谷が言葉を切った。
「こうして直接御会いしてみると、やはり元気になられたんだなというのを実感できます。今日は来て良かった・・・」
「こんなに長くお休みさせていただいたのは初めてでしたから、おかげで十分すぎるくらい英気を養うことができましたわ」
「お仕事への復帰は・・・・」
「それは・・・・・そろそろとは思っているんですが、まだ踏ん切りが」
「それは仕方ないですね。最近は一連の事件についてマスコミで大きく取り上げられることはほとんど無くなりました。・・・・でも本当に、色々続きましたから・・・・」
「本当に・・・・色々、ありました」
見つめあう形の2人。
言葉がない独特の空気が心地よい反面、逆に三重子は内心どうしようかと戸惑いを覚えてしまう。
それは小谷も同様なのは、彼の表情を見れば明らかだった。
「そういえば・・・最近のお仕事の調子はいかがですか?」
漸く三重子の方から当たり障りのない話題を振る。
「そうですね・・・最近は」
ここから小谷も自分が担当する案件について話し始め、それに三重子が相槌と質問を重ねていくことになった。
本当は彼等にとって核心となる話題について口にしたい。
だが三重子も小谷も互いにそれが分かっているのに、あえて別の話題で盛り上がっていた。