続・風祭〜reunion〜-22
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―――――卓上電話が鳴り、三重子は席を立っておもむろに受話器を取った。
「もしもし・・・・まぁ、小父様。お変わりなく」
久しぶりに耳にする山荘の主にして三重子の雇用者でもある加賀の声に、三重子の表情は明るくなり口許には自然と笑みが浮かぶ。
そんな三重子を、ダイニングテーブルに座を占めて“煎れ直された”コーヒーカップを手にする小谷が楽しそうに眺めていた。
「ええ、ええ・・・私の方はすっかり良くなりましたわ。こんなに長く休ませてもらって、逆に申し訳なくて・・・・いえ、そんな。小父様にそう言っていただけると」
小谷の視線を意識しつつも、自分を心配する加賀の言葉に三重子は何度も頭を下げる。
2時間前の名残は僅かに残っているものの、流石に下着から普段着までをいつものように身につけている。
一見すると普段の三重子の朝と同じ光景だった。
「それで仕事のことなんですけど、そろそろ復帰しようかなと・・・はい、大丈夫です。気持ちの方も整理できましたし、一区切りつけたと思っていますから・・・・はい、来週くらいからと・・・はい、結構ですわ。改めて宜しくお願い致します」
ここで三重子の顔が固まった。
「・・・え、そんなことは・・・あの、その」
加賀が発した「三重子の声が華やいで聞こえるのは気のせいかな。さては新たな恋か出逢いでもあったかな」という冗談めいた高笑いに、図星をつかれた三重子の頬は赤らんで熱を帯び、応答もしどろもどろになってしまう。
相変わらず勘の鋭い加賀の見立てに舌を巻く思いだった。
「はい・・・はい・・・分かりました。それでは来週に・・・いえ、山荘は快適です、足りない物はありませんわ。はい・・・それでは」
来週の予定の確認と長らく山荘を借りていることへの礼を述べ、三重子は静かに受話器を置いた。