続・風祭〜reunion〜-10
「・・・・すみません。三重子さんには不快なことを思い出させてしまって」
「いえ・・・・構いませんわ」
考え込んでしまった三重子に対して慌てて小谷は謝罪し頭を下げる。
ここで互いが沈黙する中、微妙な空気を変えようとしたのだろう。
おもむろに小谷は腰を上げた。
「そうだ・・・・三重子さんにお見せしようと持ってきたものがあるんです」
「まあ・・・・何かしら」
「大したものではありませんが、懐かしいものなんですよ。ちょっと待っていてください」
小谷の背中が見えなくなると、三重子は大きく息を吐いた。
小谷自身の思いや彼の亡妻のこともさることながら、
三重子は彼の持ってくる“懐かしいもの”に気持ちを切り換えていた。
彼との接点は三重子が結婚を決意させたスイスのローザンヌにおけるレマン湖でのものに遡れる。
あの時のことは最近思い出す機会もなかったのだが、まさかこのような形でとは―――――――――
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「お待たせしました」
再びリビングに戻ってきた小谷は左脇に分厚い赤い表紙のアルバムを挟んでいた。
アルバム自体はそれほど古い装飾でもなく、少なくとも数年前といったところか。
「アルバム・・・・写真ですか?」
「ええ・・・私が初めて貴女を目にした時・・・そう、スイスのローザンヌ。あの時にレマン湖と周辺の情景を撮った写真をまとめたものですよ」
三重子の傍らに座りながら、小谷は脇に挟んだアルバムを机の上に置いた。
アルバムの表紙の右下には撮影期間を示した年月日がマジックペンで記載されていた。
「遥か昔のように感じていたのに・・・日付を見ると、本当に数年前のことになるんですね」
「そうですね。あの時は、そう・・・貴女には目付きの悪いカメラマンみたいな印象を与えてしまったんでしたっけ」
「もう・・・そのことは仰らないで」
小谷の軽口に苦笑しつつ、三重子は一枚また一枚とアルバムのページをめくり、ページ毎にそれぞれ貼り付けられた写真に目を凝らす。
そんな三重子の傍らで小谷は黙って、ページをめくる彼女の指と横顔を交互に見つめていた。
各ページには三重子が目にしたレマン湖と周辺の景況やそこにいた観光客の姿が様々な角度から記録されていた。
そこには三重子にとって印象的だったシヨンの城やウーシーの船着き場、そして彼女自身も乗船した周遊船も含まれており、
湖畔の自然の写真には周遊船から撮影したであろうものも含まれていた。
特定の個人を撮影したものがない分、
三重子は頭の中で当時のレマン湖の情景や自身の思い出を明確に思い出すことができた。
忘れていた出逢いや別れ、そして記憶の中にいる人々がその後に辿る人生の道筋を――――――――――――