黒装束のママ-1
裕子の寝顔を見ていると 裕子が目を覚まし
「お早うと」声を出さず口を動かした 裕子の頭を撫で起き上がると
裕子も起き上がり
「昨日凄かった」 和夫の朝立ちを握り潤んだ目で呟き ベッドから降り
台所に向かって行った 和夫もリビングのソファーに腰を降ろす
目の前にコーヒーが差し出され
テーブルにトーストとベーコンエッグが並び
裕子と暫くぶりの朝食を取った 自室へと戻りパソコンを立ち上げ
井上の携帯に連絡を入れたが 繋がらない
英麻と会話している時に思いついたアイデアを パソコンに打ち込み
連載小説の続きを書き始めた
次回分を書き上げ 読み直しをして 保存を掛け
煙草に火を着け窓の外を見ると陽が落ち 辺りが暗く成って居た
和夫は考え込んでいた
昨夜裕子に注いだ時目が覚めるかと 思ったが
覚める気配が無い
・・・今は?・・ 現実?・・ 夢の中?・・・
股間に手を当て 雄々しい物に触れ
・・夢の中か・・・
夢の街への 電車が思い出せない 英麻と二人街から
電車に乗り上野で山手線に乗り換えたはず
英麻は秋葉原で降り 和夫はそのまま神田から中央線で新宿へ
夢の街から上野までの路線名が頭の中で消えていた
リビングから裕子の優しい声が聞こえ 降りていくと
裕子が微笑み和夫を見て夕飯を食卓に並べ
まるで新婚の新妻の様に嬉しそうに話しかけてくる
「朝まで ぐっすり寝ちゃった 」
和夫の前に座り 照れた様に笑いかけて来る
「食事終わったら 少し出かけて来るね」
和夫の言葉に裕子が少し落胆したように顔を伏せ頷いた
「1時間位で 帰って来るから」
和夫の言葉に嬉しそうに顔を上げ 目を輝かせ頷いてきた
自宅を出ると 坂道を下り駅前から
見慣れた路地を進む白い行燈が見え 何時もの様にドアを開け
頭の上の ドアベルのカランコロンと言う音を聞き 店内に・・・
ママが笑顔で迎えて呉れ
和夫は首を傾げた 店の雰囲気が違う 微妙な違和感を・・・・
ママの服装と髪形が違っていた
何時も白い装いが今日は黒いパンツと体にフィットした
黒いサマーセーターを纏い体形を際立たせ
何時ものパーマを掛けた髪はストレートに変わり
胸の上までの長い髪の間から大きな黒い瞳が和夫を見つめ
妖艶な笑顔で和夫を迎えて呉れた
何時ものカウンターに座り
ママが薄い水割りを目の前に出して呉れ グラスを傾け
・・ママに・・・
和夫は言葉を探していた 夢の話?・・・
夢の中で此処に来ている?・・・
・・・今は夢の中?・・・
ふと顔を上げ ママの瞳と向き合い言葉を出そうとした時
ママの目は肉食の猫が獲物を捕らえた目で和夫を見つめ
語り掛けてきた・・・・・
「夢から 覚めなくて此処に来たんでしょう?」
和夫が頷く ママは遠くを見て
「このお店のドアは 現生と想像の出入り口なの
このお店の名は エントリー」
「出入口なのよ・・・」
ママの瞳に吸い込まれるように和夫の頭の中に電気が走り
・・・・・目の前が揺らぎ・・・・・・・