電話-1
その時、どこかで携帯の着信音が響いた。
どうやら、有美が着ていた丹前から響いているようだった。
「ちぇっ。」と鬼頭は舌打ちをした。
『いいところで・・。』そう思いながら、有美の丹前をまさぐり携帯を取った。
液晶画面に「浩之」の文字が浮かんでいた。
『山下か。』鬼頭は忌々しく思いながらも、あるアイディアを思いついた。
「有美。山下からだ。出なさい。」
有美は躊躇していた。
鬼頭は、携帯の受信ボタンを押して、顔を隠したままの有美の手を剥ぐようにして、携帯を持たせた。
「もしも〜し。もしも〜し。ゆみちゃ〜ん。」
携帯の向こうからノー天気な山下の声が聞こえる。
「早く出ないと、変に思われるぞ。」
鬼頭は有美を促す。
「もしも〜し。もしも〜し。」
小さな声で有美は「はい。」と答えた。
「あっ、俺。」
「うん。」
「どう、そっちは。温泉入った?」
「うん。」
「どうだった?」
「うん。よかったよ。」
浩之は、有美の声に元気がないことに気づき、「あっ、容子さんそばにいるの?」
浩之は、有美が、容子に聞かれないようにしているのだと勘違いをした。
「うん。」
有美は思わずウソをついた。
目の前には、容子ではなく、ソファに座り、有美のあられもない姿を眺めている鬼頭がいた。
鬼頭は、顎で、会話を続けるように指示をした。
胸はブラで隠されているとはいえ、下半身は下着を膝まで降ろされ、性器を吐き出しにされた姿を見られながら、浩之と会話をするのは辛かった。
しかし、鬼頭は続けるようにと言っている。
片手で顔を隠し、耐えながら浩之の声を聞いた。
いつもなら、自分の方から話しかけていくのに、さすがにそれが出来なかった。
浩之は、側に容子がいるからだと思っている。
有美は浩之が何を話しているのか、ほとんど聞いていなかった。
ただ、浩之の話に、「うん。」「うん。」とカラ返事をしていた。
有美の意識は、浩之ではなく、鬼頭にあった。
早く切りたいと思った。
しかし、こういう時に限って、いつになく浩之が話しかけてくる。
普段、無口な浩之も、どうかすると長話をするときがある。
大概、仕事でうまくいかず、不満のあるときだった。
『何でこんな時に・・。』そう有美は思った。
鬼頭が立ち上がり、バックから何かを取り出した。
デジタルカメラだ。
鬼頭は、カメラを構えた。
『えっ!』
そう思った瞬間、フラッシュが光った。
『嫌!』
有美は泣きたくなった。
フラッシュは何度も光った。
早く浩之の話が終わってほしかった。
鬼頭は、有美の割目にカメラを近づけアップで撮ろうとする。
『嫌!』『そんなの嫌!』
鬼頭は、後ずさりしようとする有美の腰を抑え、割目を何枚も写した。
『嫌!』
『浩之さん、早く終わって。お願い。』