惨虐な連鎖-2
ハラリと毛布が解けた刹那、唯は男に羽交締めにされた。
この声、この体臭……助手席に乗り込んできたあの男に違いなく、そしてやはり強力な腕力に、唯は歯が立たない……。
『クククッ……落ち着けよ先生。俺らは彩花に手出しはしてねえ……なあ、見りゃあ分かるだろ?』
「あ、あんな恰好させて何を言ってるの!?この手を離しなさいッ!」
ビクともしない男の腕に、唯の視界は彩花を真ん前に捉え続けるしかなかった。
彩花が穿いている淡いピンク色≠フパンティには、汚れた部分は見当たらない。
Yシャツのボタンが弾けた跡も無ければ、スカートにも乱暴に扱われた形跡は無い。
あるのは痛々しく泣き腫れた、今にも失神してしまいそうな悲惨な表情だけだ。
『落ち着いて聞けよお?なあ、俺らがナニか≠オたらよお、パンティはグチャグチャに濡れてるはずだろぉ?ほら、《あの女》みてえによお』
「んぐッッ!?」
部屋の隅に、両の手脚を吊られて宙吊りにされている女性の姿があった。
彼女を何処かで……いや、あの髪の色は、あの鼻の形は報道記者の彼女……昨日、夏美のビラ配りをテレビで放送する事に協力してくれた、古芝風花ではないか……。
「こ…古芝さんになんてコトを…ッ!?」
まるで《処刑》されたような風花の姿に、唯の声は萎縮していた。
彼女をあそこまで≠ノした理由が分からず、そして、なぜ彩花が彼女と一緒に此処に居るのかが分からない……。
『一つ一つ説明してやろうか?先ずはあの女だ。アイツは俺らがしている《仕事》に横槍を入れて、しかも俺らを捕まえようとしてる警察に協力したんだ。つまり邪魔だから拉致した。頭に来たから姦ったってワケさ』
「……ひッ…だ、だからってあんな…ッ」
ただ息をしているだけにしか見えない風花の姿に、唯は口籠るしかなかった。
自分を拉致する時の手口は、乱暴でありながら周到でもあった。
初めてとか素人とか、そんなレベルではない集団なのは明白だった。
『ここまでは理解したか?俺らはずーっとアイツを拉致るチャンスを狙ってたんだ。で、今朝になってチャンスが来た。その時にたまたま彩花が側に居た。せっかくのチャンスは逃せねえ……だから彩花も拉致したってワケよお』
「そ…そんな理由で…ッ……い、井元さんを…ッ!」
犯罪者の身勝手な理論が、彩花をこんな酷い目に遭わせた……。
教師として許せない気持ちに心が震えるが、しかし、その言葉通りであるならば、彩花は完全に《無関係》なはず。
『クククッ!察してくれたか?彩花は関係無えんだ。ただなあ、そのまま帰したら警察に言うよなあ?そりゃあマズいってんでいろいろ考えてたら、確か昨日、駅前のロケで《先生》と一緒にビラ配りしてたってのを思い出してよお』
この男共が風花を狙っていたのなら、確かに昨日のロケ現場も見ていただろう。
顔立ちのハッキリした彩花は目立っただろうし、取材を受けた自分の姿も、やはり見ていたはずだ。
『なあ唯先生、俺らのコトを黙っててくれるかあ?なあに、正義面した古芝風花って女をレイプしただけだあ。可愛くって憎たらしい女のレイプ動画を撮って、ちょいと金儲けしようって……』
「ば、バカ言わないでッ!犯罪を見て黙ってるなんて…そ…そんなの…ッッッ」
堰を切ったように叫んだが、それは直ぐに弱くなって萎んだ。
たった一人の男にすら、唯は敵わない。
彩花は頑丈な革や鉄で悍ましい椅子に拘束されているし、その周りには六人もの男共が居る。