LOOSEU-1
…ガチャッ
重たい扉を開けると生あたたかい空気に体が包まれた。
さっきまで俺とナナが絡み合っていた部屋。
ほんのりナナの甘い香水の香りがまだ残っている。
嗅ぎ慣れた匂い。
ついさっきまでこの香りに包まれていたのに…。
不自然に、逃げるように帰って行ったナナを追い掛けて行ったけれど結局見つからなかった。
もう一度鏡の前に立って確かめるようにキスマークを見る。
確かに暗闇でもわかる位にくっきりとそれはあった。
心当たりは、ある。
でもつけられている事はナナに言われて初めて気付いたのだ。
「………チッ」
苦い気持ちが広がり、思わず舌打ちを打つ。
今日、昼間に女が押しかけてきた。
最近仕事が忙しかった上にナナと朝までSEXしていたから俺は疲れ切っていて、ナナが帰った事にも気付かず寝ていた。
だから玄関の鍵は開きっぱなしだったし、勝手に入ってきた女にも気付かなかった。
「…う……ゆ…」
誰かに呼ばれてる気がして目をあけると、そこにはセフレの瞳がいた。厳密に言うと、その女が瞳だと気付くのにも時間がかかったのだが。
瞳とは最近全く連絡をとっていない。
瞳だけでなく、ナナ以外のセフレとはもうとっくの前に縁を切った。
それなのに…。
「…何やってんの、人ン家、勝手に入って来て」
まだ眠気でだるい体を起こして瞳を見た。
『だって何回チャイム鳴らしても悠出ないんだもん。鍵あいてたから入ってきちゃった。』
そう言って瞳はぷぅっと頬をふくらましてベットに腰掛けた。
『てゆぅかさぁ、何で最近連絡くんなぃの?寂しいんだけど。』
それはもうお前に興味がなくなって、ナナ以外抱く気がしなくなったから。
心の中で呟きながら手を伸ばしてタバコに火をつける。
「仕事忙しーの。俺、疲れてるから寝たいんだけど。」
『…てゆぅか他の女とヤる元気はあるんだ。さっきまでヤッてたんでしょ。』
そぅ言われて初めて自分が全裸な事に気付いた。
ナナとヤッた後そっこー寝たんだっけ。
「アタシとはしてくんなぃの?」
瞳はそぅ言いながら悠の目を覗き込んだ。
くりっとした丸い目に長い睫毛。鼻筋もすっきりと通ってぽってりした唇。
瞳はどこにいっても美人な部類に入る上に抜群のスタイルだ。
こんな奴に誘われたら断るやつなんていないだろう。
でも俺はそんな瞳を目の前にしても何も感じなかった。
昔は瞳が一番お気に入りのセフレだったのにな、とまた心の中で呟く。
「…俺、そんな気なぃから。帰って。」
「…冷たいんだね。」
「…仕事忙しいから。疲れてんの。」
「…仕事ってコレ?」
瞳はそう言ってデスクの上に置いてあるデザイン画を手に取って言った。
「…nanako…最近ハマってる女の名前?その人のための服?」
「……」
「珍しいんだね…悠がそんな事するなんて。」
…確かに珍しい事だと思う。
今まで女にプレゼントなんてろくに渡した事もないし、ましてや自分で服を作ろうなんて思った事もなかった。
でも。
…ナナは俺にとって特別なんだ。
…所詮セフレだけど…
…所詮恋人ではないけれど…
それでも俺のそばにいてほしいのはナナ…お前なんだ…。
いつからそんな風に思うようになったんだろう?
始めはいつものノリだったのに。
でも…
いつの間にかナナが傍にいる事が当たり前になって…
ナナの傍が心地良くなって…
ナナじゃなければいけない俺がいる。
今までそんな事思った事もなかったのに…
自然にそう思えるようになったんだ…
瞳は何も言わずいつの間にか帰っていた。
日は沈みかけていてかすかに空がオレンジ色に染まっている。
せっかくの休みをこのまま過ごすのはもったいなくて、自然にナナに連絡している自分がいた。
デザイン画を見つめながら、ナナに好きな布を選ばそう…そう思いながら…―