憲=綺麗?-1
9月だ。
始まって欲しくない二学期になって二週間とちょっとが過ぎて、去年とは日程が変わった学園祭の文化祭が始まったのだが……。
「なぁ、白雪…やっぱり帰って良いか?」
憲が泣きそうな顔をしてこっちをみる。
う……ウルウルした瞳が可愛い。
だが、だが!
ここは譲れないのだ。
アタシ、矢城白雪はこの日のために鬼になったのだから。
「駄目だ」
「そうよ。大丈夫、太田くんなら優勝出来るわ」
楽しそうに麻衣が続ける。
「したくねぇ!!ちくしょー、一体なんでこんなことになっちまったんだぁ!!」
スラリとした背格好によく似合うロングヘアのカツラ、ほっそりとした顔立ちにバランス良く施された化粧、そして青いドレスを着込んだ『憲』がそう嘆いた。
『憲=綺麗?』
どうしてそうなったか。
説明するには最初から順番にした方が良いだろう。
事の発端は二学期が始まった次の日だった。
夏休み前から結成されていた『学園祭文化祭部門実行委員会』に参加していた高坂がクラスの出し物とイベントへの出場者を決める会議を取り仕切っていた時だった。
「えー、それじゃあ、再確認するぞ。模擬店は焼きそばで、店名は『焼きそば将軍〜余の焼きそばを食べ忘れたか?〜』……。やっぱり店名変えない、これ?」
げんなりした様子で高坂が呟く。
何故だ。凄くかっこいいのに。
「白雪の趣味丸だしだな」
横に座った憲が嘆息する。
「アタシが作るんだから良いだろ!」
そう、模擬店の料理担当はアタシだ。まぁ、午前中だけど。
「それに、これは投票で決まった事だろ!」
「まぁ、そうだな。投票で決まった事なら仕方ないか」
「……仕方ねぇ。えー、じゃあ次。舞姫コンテストには去年同様、矢城が出るって事で良いな?」
う……。
「アタシ、やっぱり辞めたいんだが」
おずおずと手を挙げる。途端にみんなから落胆の声が上がる。
「ちょっとー、白雪が出ないで誰がでるの?」
「そうだよなぁ。他の子もけっこうレベル高いけど、矢城のレベルはずば抜けてるからな」
………。
「矢城。投票で決まった事なら仕方ねぇんだろ?」
う……。高坂の癖に生意気な。
「はい、決定〜。うんじゃあ、次。『原始人風マシュマロ早食い選手権』に出るのは俺で…………」
とまぁ、こんな感じで会議は続いた訳だが、最後に『あれ』の決議があったのだ。
「はいじゃあ、次は『逆舞姫コンテスト』の出場者だけども……」
「『逆舞姫コンテスト』?」
これから何が起こるかも、そしてすでに起こり終えている事も知らない憲が怪訝な顔をする。
「なんだそりゃ。不細工コンテストか?」
「いんや、まぁ簡単に言えば………女装コンテストだな」
高坂がそう告げた瞬間、憲がビクリとした。
「はい、これは憲、と」
「ちょ、ちょちょちょちょっと、待てコラァ!!!!そんなもん一体いつの間に決めて、って言うかなんで女装コンテストなんだぁ!!??」
「あぁ、俺が企画した」
叫ぶ憲に対して、高坂は随分と冷静だった。
「て、てめぇ………」
「企画しただけだ。やるって決まったのは、委員会の総意だぞ」
「じゃあ、何で俺なんだ!?」
「このクラスにお前ほど女装の似合う人間がいるか?輝かしい経歴もあるじゃないか。中学時代、三年連続女装王に輝いたお前以外にどんなやつを出せと言うんだ」
「………独、まさか」
「あぁ。しっかりとよく撮れた写真を見せたら、みんな諸手を上げて賛成だった。良かったな、憲」
「…………」
かなり殺気の混じった視線をみんなに送っている。