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その声を そのぬくもりを
【純愛 恋愛小説】

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その声を そのぬくもりを-6

 僕は辺りを見回しながら、前へ進んだ。ゲーム機の台数に比例して、客の数も半端じゃなく多い。
 「知らなかったな。こんなところがあったなんて」
 そしてふと、僕が横を向いた時だった。壁の花のようにたたずむ、一台のゲーム機が僕の目を引いた。僕はそれに引き寄せられるままに歩き、気が付くとその場所へたどり着いていた。
 「でかいな」
 と、僕はそのゲーム機を見上げた。そのゲーム機は名前を『先見』といった。他のゲーム機のようなしゃれた名前ではないのに、僕はこの『先見』に対して、妙な好奇心を抱いてしまっていた。
 「財布、持ってくればよかったな」
 僕は悔やみながら言った。
 ちなみに『先見』のゲーム内容は今はやりの占いだ。このゲームに、今僕の置かれている状況を占ってもらおうかと思ったが、これじゃあ無理だ。
 そう思って僕が帰ろうとした時だった。
 「ハジメマシテ・・・ショウ・・・ネン」
 「え?」
 と、言葉が漏れた。
 お金も入れてないのに、何故動いたんだ。そもそも、何で僕が男だとわかったんだ。
 「ナヤミノウズ・・・フカイ、カナシミ・・・」
 「なんだ?何でわかるんだ」
 僕は息を飲んだ。普通、この手の占いゲームというものはいくつかのアンケートをとって、それを元に当り障りのない適当な答えを出すものだ。一体これは、何を元に話をしているんだ。
 「ナクナ・・・モウスグオワル」
 「終わる?」
 「チカイ、ミライ、ウンメイノヒトトデアウ・・・ショウネンノミライヲオオキク
サユウスル、ジョセイ」
 「運命の、女性」
 と、呟く。なんだ、これではっきりした。このゲームも他の占いと同じだ。始めの方が当たっていたのだって、ただの偶然だろう。
 何故なら、僕にとっての運命の人は百合華姉さんしかいないし、それに彼女の命の炎も
今、もうすぐ燃え尽きようとしているのだ。
 出会いどころの話じゃない。
 「デアイノジカンハ・・・」
 しつこくも『先見』の占いは続いた。僕は「はいはい」と頷くと、それの話も途中で投げ出したまま、歩き出していた。
 そこが知れたとたん、一気にしらけてしまったのだ。まったく、一瞬でもどきりとした自分が馬鹿みたいだ。自動ドアが開く。太陽の光がまぶしい。僕は手をかざしたまま、外へ出た。
「病院にでも行ってみるかな。ここからなら、二十分くらいだろう」
「デアイノジカンハ・・・ヤク・・・ニジュップンゴ・・・」
予想していたより、病院へは早く着くことが出来た。
 建物の中は、いつもよりかすかだが涼しい気がする。きっと外がこの暑さだから、そう感じるだけなのだろうけど、それでも精神的にも肉体的にもすうぅっと癒されていくようだ。
 僕は階段を上り、集中治療室へ向かった。途中、何人もの看護婦さんや医者が僕の横を足早にすぎていった。入院患者に何かあったのかもしれない。
 その騒動の根源が二階だと知ったのは、僕が階段を全て上り終え、長い廊下を歩き出した頃だった。
病棟では珍しい人の数と機械に、僕は立ち止まって息を飲んだ。みんなが集まっているその部屋は、これから僕が向かおうとしている部屋だったのだ。
 僕は弾かれたように、人と人の間を縫って進んだ。
 「すみません!どいてください!」
 おしくらまんじゅうをしている気分でなんとか部屋へ入ると、僕は顔を上げた。
 「え?」
 目の前が真っ白になった。ただ一つを抜かして、何も見えなくなった。
 僕の瞳に映ったのは、目を開けた姉さんの姿だった。やつれてはいるものの、ベッドも枕もとを上げ、それに寄りかかって目を開けている。夢じゃない。願っていた頃の幻想なんかじゃなく、本物の百合華姉さんがそこにいる。


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