同僚への嫉妬-5
「お前さー、加奈ちゃんのこと好きだろ?」
「っ……?は……?」
口に入れたビールを吹き出しそうになり、右に座る亨の方を向く。
「昨日ね、柚木と加奈ちゃんと飯食ったの。柚木がお前の話ばっかりすんだわ。加奈ちゃん、顔真っ赤にしてたよ」
「は、話が見えないけど………」
「俺が加奈ちゃんって呼んでて、あんなこの世の終わりみたいな顔してんの、好き以外に何もねーだろ。何勘違いしてんだかわかんないけど、加奈ちゃん、俺のいとこだよ」
クスクスっと亨が笑う。ちょうど、お通しが二人分到着して、「ありがとうございます」と丁寧に亨が店員に挨拶をする。
「え。いとこ」
「うん。普段は中村さんって呼んでるけど。加奈ちゃん、シングルだしさ。あんまり必要以上に情報流されたくないだろうし、そうしよって。俺の母さんの旧姓が中村。俺の母さんと、加奈ちゃんの親父さんがキョーダイなわけ。加奈ちゃん、俺の母さんそっくりだよ」
理央の思考は止まってしまった。
地元も同じで、六つ上のいとこーーそうした関係性なら当然、加奈子を下の名前で呼ぶだろう。
何も確認せずに、加奈子に何てことをしてしまったのか。
「加奈ちゃんが、男、部屋に上げるなんて…ないぜ。親戚だから言わないだけかもしれないけど、俺だって気遣って家族で行く時とかじゃなきゃ入らねーもん。しかもさー」
ーー佐藤くんのこと信頼してるから部屋入れたに決まってるでしょ。息子に優しくしてくれないような人なら、入れないもん。
加奈子の言っていたこと、さらには理央が昨日してしまった行為を思い出し、顔を青ざめさせながらも亨の話を聞いていると、亨は突然くすくすっと笑い出す。
「佐藤くんは約束を守る男なんだよ!だって、僕が泊まってって頼んだらね、お母さんと結婚してないから一緒に寝ちゃいけないって!って柚木が言い出してさ。
加奈ちゃん、チョーゼツ顔真っ赤にしてんの。家に泊まらせるって、佐藤のこと、余っ程信頼してんだな。柚木もすげー懐いてるみたいだし」
亨がそう言っても、何も言えない理央を察してか、亨はメニュー表を開いて店員を呼び止め、いくつか料理を注文する。
「あ、ついでにビールも下さい」
パタン、とメニュー表を閉じて、ビールの横にそれを置いた。
「何か、すれ違ってんの」
「……そーかも」
理央は俯いて、苦笑いした。
「昨日の、俺のせいで動揺もした?」
「だいぶ」
「マジごめん……迂闊だったわ」
勝手に勘違いしたのは理央なのに、亨は優しい。
亨はふぅ、とため息をついて口を開いた。
「飯食った後、加奈ちゃんちまで送ってさ、ドアの前で聞いたわけ。家まで入れてんでしょ、佐藤とはどうなのって。そしたらさ佐藤くんは好きな人いるから、あたしのことなんか何とも思ってないよって」