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ミライサイセイ
【悲恋 恋愛小説】

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ミライサイセイ act.3 「残されたもの」-4

手放せるわけがない、その笑顔。
傷ついた僕を癒し続けた、その時間。
けれど、と考えてしまうのは許されないことだろうか。
けれど、それは僕の勘違いで、本当は癒すべき傷なんて僕には無かったのだ、と。
癒されるべきは、あやで。
横にいるべきは、僕で。
ならば、僕の横にいるミクはどこにいるべきなのか?
何が正しくて、何が正しくないのか。僕には分からない。
大地は別れ際に言った。
「お前は真実を知った。だからあやの傍にいなければならない」
「恋人が、いるんだ」何かに許しを請うように。僕は言う。
大地は首を横に振る。
「今まではそれで良かった。けれど、知ってしまったら、もう許されないんだ。俺が一緒だった、あの頃のお前は、絶対にあやを独りにはさせない。みつひささんが憧れ、俺が認めた『あきら』は、そういう奴だった」
「誰も、傷つけたくない」
みんなが笑えるように。
そんな日々を望まずとも手にできるように。
「全てが救われる未来なんて、無いのかな」
渇いたこえが、確かに響いた。
「あやに残された未来は、ほんの僅かさ。だからお前がそれを最盛にしなきゃならないんだ。他の誰でもない、お前が」
未来は望まずともやってくる、そう信じていた。兄を失う前までは。
自分で歩いていかなければ、そこには辿り着けないと知った。
兄は、あの春に立ち止まり。
あやも、そう遠くない将来、歩くことを止める。
だからその時までは、僕が一緒に歩いていくべきではないだろうか。
彼女が歩く、その道に満開の花を添えるべきではないだろうか。
後悔をしている。
兄を見送る夢。
その無力さ。
繰り返すのか。
――― また、繰り返すのか?
「あきら、泣いているのですか?」
言われて、頬を伝う冷たいものに気付く。
「え?」
悲しいのではない。
哀しいのではない。
僕はただ、悔しくて堪らない。
兄さんならば、ひとの運命さえ変えられただろうか。
「大丈夫です。大丈夫」ミクは僕を抱きしめた。いつに無く強い抱擁だった。
大丈夫、大丈夫。それはまるで自分に言い聞かせているように。
「ミク、幸せって何なのかな?」
声が震えていた。それは自身の声だった。
「私にも分からない。でもそれは、きっと目には見えないものです。確かな事は、貴方がそれを持っているっていうこと」
「持っている?」
「そう、あきらが人を惹きつけるのは、そういう部分」
――― お前には、さ。あるんだよ。そういうチカラが
目に見えないのなら確認のしようがないのに、どうしてソレを僕の中に見つけられるの?
兄さんも、
大地も、
あやも、
ミクも、
みんな同じ事を言うけれど。
みんな幸せになっていないじゃないか。
「あきらのお兄さんの話、してくれたことあるわよね?」
ミクは、既に敬語口調が崩れている。
「いつも窓際にいる癖。私にはどうしてか分かるの。いいえ、多分みんな気付いてる。あれはね、いざという時に愛する弟を守るためよ」
窓の外に向けて、絶えず動いていた視線。
狩りをするライオンのときのような眼差し。
それもまた、僕のために。
「目を閉じれば、貴方がいる。それが幸せ。きっとお兄さんも同じだったんだわ」
本当は、気付いていた。
だって窓際に陣取るのは、決まって僕と一緒の時だけだった。


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