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ミライサイセイ
【悲恋 恋愛小説】

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ミライサイセイ act.3 「残されたもの」-3

「お前が悪いわけじゃない」目の前の大地は言った。
当時、両親も繰り返した、その言葉は僕の傷を癒すことなく。
一ヶ月以上、部屋に引き篭もった。
何もやる気が起きず、何もやらなかった。
ほら、兄さんが残した命の使い道は、こんなもんさ。
危うい笑みを浮かべ、日々を過ごした。
その過去を知っているからこそ、大地は今回の件に頭を突っ込んだ。
「あやは、そう長くない」
気分を落ち着けるように、コーヒーを口に運ぶ。
ごくり、と大きな音が鳴る。
「慢性心不全」
「なに?」
「心臓病の一種だ」
ドクン、と鼓動が一つ大きく響いた。
「いつから?」
「病状に気付いたのは、お前と別れる一ヶ月くらい前らしい」
「手術では治らない?」
大地は答えず、首を横に振った。
別れを切り出した時の、あやの表情を思い出す。
何かに耐えるように下唇を噛む仕草と、耐えられずに零れる雫。
「あやも、お前がみつひささんを失ったときの事を知っている。だからもし、自分が死んでしまったら、そう考えたんだ」
「だから僕と別れた?」
「だからお前と別れた。俺を好きになったってのは嘘だよ」
「そんな」
幸せになってほしいと願った。
僕の周りにいる人たち、全てが微笑みに満ちていればいい、と。
「もし、本当にあやが俺を好きになっていたとしても、俺は彼女とは付き合えない。あきら、俺はお前との関係のほうが大事だからだ」
大地は、真っ直ぐな眼差しを向ける。
「でも、僕は大地が裏切ったと思っていたんだ。だから今まで連絡もしなかった」
「それは仕方の無いことだ。誰が悪いわけじゃない」
僕が関わる人生は、けれど幸せとは程遠いものになっていないだろうか。
僕は目を閉じた。
あやは、僕を傷つけないために孤独を選んだ。
ひとの微笑みを優先させる生き方は、誰かの願いを彷彿とさせる。
何だ、やっぱり僕らは似たもの同士じゃないか。
「みつひささんが死んだとき」大地は言った。
「俺は認められなかった。だから跳躍に力を注いだ」
「あぁ」
分かっている。分かっているよ、大地。
お前は、跳ぶことで兄さんの背中が見えるんじゃないかと思ったんだ。
「けれどそれは、やっぱり無意味だったよ。どうやったって死者には追いつけない」
「それじゃあ残されたものは、どう生きればいい?」
教えてくれよ、兄さん。
大地は首を横に振った。「お前は取り残されてはいないよ」
――― あやは、まだ生きている
単純な、こたえだ。
けれど、僕にはミクがいる。
だからそれは、難しい、こたえだ。




「あきら、元気ないですね」
ミクは黙ったままの僕に言った。
「そんなことないよ」
視線を泳がせて、ミクを見た。
「今週中に退院出来るみたいです」
「おっ、そうか、良かった、良かった」
大地と別れてから、そのまま見舞いに来たので気持ちの整理が追いついていない。その言葉はどこか、宙を掴むように上滑りをしている。
「退院したら、どこか行こうか」
「本当?」
桜が花開くように、彼女の顔は輝いた。


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