特進クラスの期末考査 『淫らな実験をレポートせよ』act.2-1
「先生ッ、何で私までこんな課題なの!?」
夕陽に照らされた化学準備室で、女子生徒は化学室の主、大河内(オオコウチ)に向かって責め立てていた。
「私、先生とちゃんとエッチしてたでしょ?何で?こんな課題、どうして出したのよっ」
怒りで頬を上気させながら女子生徒は更に責める。
しかし、大河内は何の反応も見せないまま、煙草をふかして続けている。
「私は嫌よっ、こんな課題ッッ」
バンッと手に持っていた皺くちゃのレポート用紙を机に叩きつつけた。
響き渡るその音を聞き、大河内はようやく煙草を灰皿に擦りつけ、女子生徒を見た。
「美樹、そうカリカリするなって」
大河内はそう言うと、椅子から立ち上がって女子生徒の目の前に移動した。
一瞬にして、長い黒髪の女子生徒は黙りこくってしまう。
「俺は美樹が一生懸命な所を見るのが好きなんだぜ」
言いながら、大河内の手は美樹と呼ばれた女子生徒の太股をねっとりと触っていく。
「美樹なら俺を喜ばす事なんて簡単だ。な、美樹は俺が好きだろ?」
唇が美樹の耳たぶに触れ、甘い囁きはまるで媚薬の様に美樹を翻弄していく。艶の有る黒髪が左右にサラサラと流れた。
「美樹。課題、出来るよな」
コクリ…と半ば強制的の様だが美樹は自分から頭を下げた。
机に置かれたレポート用紙が、ふわりと風に揺れる。
『課題:下着をつけずに一日を過ごし、痴女になれ。』
この甘い囁きが美樹の分岐点となるとは、まだ誰も知らない―――
act.2
《羞恥の箱》
清水宏康(シミズ ヒロヤス)は正直、参っていた。
参ると言うのは勿論、例の期末考査の課題の事である。
化学の授業でこんなにイヤラシイ課題が出されたのは、昨日の事だ。
期末考査の試験日までに、自分に課せられた淫らな課題をレポートにまとめて提出する。勉強しなくて単位が取れるのだが、いやはや…。
ここで参っている清水以外の理系の生徒も、他の試験学習をそっちのけで頭を悩ませている様だ。
(だって、セックスなんてしたこと無いんですけど。どーしろ、って言うんですか)
半ば諦めモードで、清水は今日も電車で学校に向かう。
ガタン…ガタン…ガタン…ガタン……
規則的に線路を走る音。
朝、七時十二分、K駅発の普通列車は満員御礼だ。
毎朝の事ながら嫌になる…清水はそう思いながら、この小さい箱に乗り込んでいる。
むぎゅ…ぎゅぎゅ…
人肌や鞄、キーホルダーなんかが体に密着して痛い。おまけに香水臭いし。…量、間違ってんじゃ無いのか!?と、清水は怒鳴りたい気持ちで一杯の様だ。
他校の制服も見受けられるこの列車は、終点までは常に右側のドアしか開かない。
(後、三十分以上…。キツいって)
左側のドアに密着した清水は、自分の息で白く曇る窓ガラスに額をくっつけ、流れる車窓に視線を移した。