Drive on Saturday-3
と、マックフルーリーを四口くらい食べたしのちゃんが白いスプーンをさっきのフライドポテトのように俺に差し出す。計量スプーンのような形の壺に盛られた白いアイスと黒いクラッシュオレオ、それにスプーンに残ったしのちゃんの唾液を味わうように舐め取る。母親の見てる前で「こいびと」と間接キス。素人童貞はこのくらいで半勃起してくるから困る。ちゃんと「こいびと」とのセックスを経験したりしたらそうそう容易に勃起することもなくなるのかな。マックフルーリーのアイスにチュロスをつけて食べようとしているさおりさんとじゃれるしのちゃんを見ながら、ものすごく場違いに勃起について考える。今年に入ってから俺の仮性包茎は、人生最高密度で性的な刺激を受けている。しのちゃんと出逢って「こいびと」になり、麻衣ちゃんの生乳首を至近距離で盗み見し、琴美のオナニーを間近で見て琴美の濡れたおまんことその恥臭で射精し、綾菜ちゃんの裸や淫語やパフィーニップルや生えかけのワレメそしてその幼い膣臭で精液を搾り出しまくった。せいぜいネットで見つけたジュニアアイドルの画像や琴美や柚希ちゃんの息臭がオナペットだった頃とは段違いに情報量が増えている。それでも未だに、たとえば今みたいにしのちゃんとの間接キスやさおりさんとじゃれるしのちゃんのアイスが付いた唇や前歯を見るだけで中枢性勃起が引き起こされる。「こいびと」とのセックス。8歳のしのちゃんとのセックス。ううん、どこまで現実的なんだか。
そんな俺の、よく晴れた土曜日の日当たりのいいマックにまるで似つかわしくない煩悩を知る由もないしのちゃんは、トレーの片付けを俺に押し付けてマックの向かいにあるゲームセンターへ突進し、ずらりと並んだカプセルトイ自販機の前でお目当てのすみっコぐらしを探し始めた。カプセルテラリウムを見つけて、俺に向かってにへー、と笑いながら自販機を指差す。はいはい、どうせそう来ると思って、マックで小銭が出るように会計しておきましたよ。
「いいの?お兄ちゃん。しの調子に乗っちゃうよ」
さすがにちょっと呆れ声でさおりさんが言う。その、ほんのちょっとクリームやチョコレートの香りの混じった息臭を嗅ぎながら、いいんですよ、とにこやかに返事する。罪滅ぼしですから、は飲み込んで、家族サービスみたいなもんです、と続けた。
ゲームセンターから三百円ショップや書店それに輸入食品店まで、広い三階建てのアウトレットモールを俺の手を握りしめながら文字どおり縦横無尽に走り回ったしのちゃんは、俺がトイレに立っている間 ―放尿だけだ、さすがに― に、西陽が当たるベンチでさおりさんに寄りかかって眠っていた。
「本当、電池が切れたみたいになっちゃうんだからこの子は」
膝の上にショッピングバッグを抱いたさおりさんが大げさに鼻にシワを寄せる。
「ほら、しの、起きなさい。駐車場までちゃんと歩かなきゃ」
「あ、さおりさん大丈夫ですよ、俺、おんぶか抱っこしますから」
「えー。重いよ」
「や、そんなことないですよ。しのちゃん細いから軽いし」
「ふーん、なんで知ってるのかな」
固まった俺に苦笑したさおりさんは、ショッピングバッグを手にしてそっと立ち上がった。
「ほんっとお兄ちゃんって、からかい甲斐があるなあ。冗談冗談。じゃあ、しののこと、おんぶかお姫様抱っこかしてあげてください」
や、さすがにお姫様抱っこは。あ、でもまあ、しのちゃんくらいの歳の眠っちゃった娘をお姫様抱っこっぽく抱えている父親、ミラモールとかにもいたな。あれ、スカートからパンツ見えてもおかしくないんだけど、さすがお父さんたちはちゃんとスカートの裾が垂れ下がらないように抱っこしてたな。
今日のしのちゃんは膝上までのキュロットだから、どっかのペドフィリアがここにいたとしてもパンツを盗み見られるおそれはない。そのかわり俺の手のひらが包むのはなめらかな太腿の肌ではなくちょっと厚めのブルーアシードの生地だ、というのが残念だけど。
眠っているしのちゃんをミラージュのリアシートに座らせてシートベルトを着ける。バックルを持ってベルトをしのちゃんの身体の前でクロスさせるときに、あえてゆっくりと引いてしのちゃんの寝息の匂いを嗅ぐ。例によって勃起しかけるけれど、リアハッチを開けてショッピングバッグを乗せているさおりさんには気づかれない位置だ。
お兄ちゃんが好きなやつ自販機になかったけどはい、とコスタコーヒーのプレミアムブラックを差し出す助手席のさおりさんから、ありがとうございます、と受け取ってスターターを回す。まだ走行距離の浅いミラージュが軽快なエンジン音を上げる。左から来るセレナとアテンザを先に行かせてから駐車場出口への誘導路へ合流する。
「お兄ちゃん今日もほんとにありがとう。それに、いろいろしのに買ってもらって」
助手席でさおりさんがぺこり、と斜めに頭を下げた。
「そんな、こちらこそ楽しかったです。三人の都合が合ったら、また一緒に出かけましょう」
「しのが、とっても楽しそうだった。お出かけできたから、っていうだけじゃなくて、なんだろう、やっぱり好きな人と一緒にいることが嬉しい、って感じかな」
カーオーディオから藤井風が流れ、さおりさんが、あ、これ好き、とつぶやく。
「俺も、しのちゃんと一緒にいると幸せになれます」
「ふふ、まさか娘の彼氏に直接ノロケられるなんてね、それもこんなに早く。しのが高校生くらいになったらそういうこともあるかな、っと思ったことはあるけど」
そう言ってさおりさんが含み笑いをしながら横目で俺を見る。