ブラザー-9
(これがラブホテルか…)
もっといやらしい雰囲気がしているのかと思ったが、思いの外お洒落な雰囲気だ。この中でみんないやらしい事をするのかと思うといやらしい気もするが、そこらのビジネスホテルなんかよりも、一人で来たらゆっくり寛げそうな気がする。
「亜希子ちゃん、ラブホ、良く来るの?」
「来る訳ないでしょー!相手いないのにー。最後に来たの…、うーん、思い出せない。」
「え?そんなにご無沙汰なの?」
「うん。4年ぐらいは。」
「えー?ずっと彼氏いないんだー。そんな可愛いのに、もったいない。」
「寂しい人生送ってるのよ、私ぃ。」
その時鉄平が亜希子を抱き寄せ、顔を間近に寄せて言った。
「送ってる、じゃなくて、送ってた、でしょ?今、楽しいから。」
イケメンの接近に胸がドクンドクンする亜希子。
「鉄平くぅん…」
もう今すぐにでも始まりそうな雰囲気だった。
「俺、シャワー浴びるよ。」
「分かった…」
名残惜しそうな目で鉄平をシャワーに見送る。
振り返った亜希子は彰の元へ寄って来た。
「輝くんは彼女いるの?」
「い、居ないです。」
「どのぐらい…?」
「ずっと…」
「ずっとって?」
「生まれてから、ずっとです。」
「えっ…?ホント?一回も付き合った事ないの?じゃあキスも?エッチも?」
「はい…」
「そうなんだぁ…」
そう言って彰をじっと見つめて来た。
(き、気持ち悪がられてるか、憐れまれてるか…。そうなるよなー。)
この歳まで女性経験0とか情けなく思えて来た。
「さ、寂しい人生ですよね、僕…。ハハハ…」
そう言って無理矢理笑った彰だが、亜希子は笑わなかった。
「寂しい人生って辛いよね、ホント…。私も辛いもん…」
亜希子は亜希子に共感したようだ。亜希子は真面目な顔をして彰を見つめる。
「お互い寂しかった人生、今日は忘れようね?彰くん、私が彰くんの初めての相手になってあげる…。」
思いもよらぬ言葉に驚いた。
「えっ…」
亜希子の表情が艶やかに見えて来た。
「い、いいんですか…?」
「うん。」
亜希子は彰の唇に唇を寄せた。
(…!?)
いきなり訪れた、夢の中の夢、ファーストキスの瞬間に心臓がバクバクして来た。急に汗が出てきた。近づく女の温もり、彰は咄嗟に目をギュッと閉じてしまう。