彼の手の中<第二話>-2
放課後、私は掃除当番を済ませ、待ち合わせ場所の校門へ向かった。
宮川を発見し声をかけようとしたその時、その子の姿が目に入った。
後輩らしき女の子が、宮川に何かを渡している。会話は聞こえないけれど、女の子の真っ赤な顔といい、渡した瞬間走り去る感じといい、明らかに告白現場だった。
「あ、咲智」
宮川は私に気付き、それを鞄に入れて走り寄った。
「んじゃ、行こうか」
宮川はいつものゆったりとした歩調で歩き出した。さりげなく鞄を見ると、中にピンク色の封筒があった。
男の人は隠し事をしているときには目を逸らすと、何かに書いてあった気がする…
「今日、俺の好きな漫画の発売日でさ。本屋寄ってっていい?」
…むしろ、恥ずかしいくらいガンガン視線合わせてきますけど。
「…いいよ」
宮川、全然動揺してないな。告白なんて、よくあることなのかも…
「どこだ?」
私の気も知らず、夢中で漫画を掻き分けている。なんだか、腹が立ってきた。なぜ、受け取ってしまったのだろう。突き返せとは言わないけれど、『彼女がいるから』と一言で済む話だ。宮川のみんなに優しい所は人間として長所でも、恋人としては短所だ。
「あ、あったあった」
「良かったね」
「…何か怒ってる?」
「べつに」
「だって、眉間にシワ…」
「べつに」
「…怖い」
「じゃあ、怖くないおしとやかな子と付き合えば」
言ってしまってから、深い後悔に襲われた。恐る恐る視線を上げると、宮川は不機嫌そうに眉をひそめていた。
「咲智って、言って良いことと悪いことの区別もつかない人だっけ」
楽しみにしていたはずの漫画を投げ戻し、私を置いて店を出ていった。私は必死に追い掛ける。
「みやがわっ!」
いくら叫んでも、宮川の背中はどんどん離れて行く。私は転がっていた石を思い切りそこに投げ付けた。
「痛…」
「なにさ!宮川が悪いんでしょ!?」
「…何のことかわかんないんだけど」
宮川の鞄を奪い取り、封筒を突き出す。
「これ!なんで貰っちゃうの?」
言った途端、不覚にも目頭が熱くなった。俯いて涙を堪える。最悪だ…こんな八つ当たり…
「咲智」
「…なに」
「こっち向いて」
「いや」
宮川の手が頬に触れ、顔を上げられる。宮川と視線が交わった瞬間、涙が溢れてしまった。
「も〜…だから嫌だったのにぃ…」
「ごめんね」
宮川の腕に包まれる。子供をあやすみたいに、私の背中をポンポン叩く。
「…知らない」
「ごめん」
「…許さない」
「本当にごめん」
宮川の腕に一層力が込められた。宮川の心臓の音が聞こえる。好き。大好き。
私の涙が止まるまで、宮川はずっと抱きしめていてくれた。