秘密の社外業務-5
「ほ、本間さん……」
「これでも、あたしが武島くんや理央としてるのは、強要されてるからだって思う?」
佳織が狡猾な笑みを浮かべるのが見えたかと思うと、理央の耳元に佳織の息が吹きかかる。
ちゅっ、と音がして耳たぶを食まれる。
「んーもう。残念だなぁ。理央がそんな風に思ってたなんて。去年みたいなこと、二人が企ててるんじゃないかってあたしは期待してたのよ?」
「ほ、本当……?」
「ホント」
理央の頬が佳織の両手に挟み込まれた。
くりくりとした泣いてしまって潤んだ目を佳織がじっと見つめる。
「理央はもう三人でしたくないんだもんね?それは仕方ないとしても……あたし、二人に襲われたら喜んで抱かれるのに。二人だから、して欲しいの。他の人は嫌」
そんなことを言われて、きゅぅうっ、と理央の心が締め付けられる。
佳織は、理央が不安になった時にいつも欲しい言葉をくれる。
「もう、本当に子犬みたいな顔して。ーーあたしが部屋にきたこと、武島くんに内緒ね…?お会計の時くらいかな、武島くんのお部屋に誘われたけど、コンビニで買い物するからって先に帰ってもらったんだから」
「じゃ、じゃあ隼人……中村さんと……二人でホテル、戻ったの?」
「うん。そうだと思う。まずかった?」
「いや……本間さんがダメなら、中村さん……とかならないよね……?」
「あっ……」
先程の空気が嘘のように、二人は目を見合わせて思わず噴き出す。
「ま、大丈夫じゃない?本社でも女性からのお誘い、かなり気をつけてるよ。だって理央も、武島くんも、会社の人とはお食事したりも気をつけてるんでしょ?」
「……はは」
思わず、理央は目を泳がせる。
まさか、既に加奈子とセックスしてしまったのだとは到底言えなかった。
「ーー本間さん、今日は本当にありがとう」
理央が佳織の体を抱きしめながら言葉を発したその時。
コンコン…と軽くノックの音がした。
どくん、と大きく理央の心臓が動く。
理央は佳織から咄嗟に体を離して、バスローブを直すとドアへと向かった。
ドアノブに手をかけて、回し、内側へとドアを引く。
「体調、大丈夫か。理央」
そこにいたのは隼人だった。
荷物を部屋に置いてから来たらしく、ジャケットを脱いでいて、ネクタイも外した状態だった。
「寝られた?本間さんもかなり心配してた」
佳織の名前が出たことで、咄嗟に唇を噛む。
幸い、ドアからベッドは見えない位置にあり、佳織がいることは悟られないと思われた。
だがーー
「理央、もしかして本間さん、いるんじゃないのか」
「えっ」
理央は顔を上げ、自分より背の高い隼人を見やる。
鋭い目つきで、隼人にじっと見つめられた。
「本間さんの香水の匂い、する」
「え、あっ……」
理央が反応するより先に、隼人はドアを押して部屋の中へと進んでいく。