秘密の社外業務-3
「そうだとしても」
「理央……あたし、ずるいことしてるなら、謝るよ。ごめん」
時が止まる。
強引に抱いて、好きになって、一方的な思いだとしても、佳織は理央に今まで通り接してくれていた。
そして後輩だからこそ、大事なのだと会う度に言ってくれていたのだった。
それの何がずるいのか。
理央の要求をーーセックスを拒めない、優しい佳織に強要しているのだとさえ、理央は思っていた。
「違う、理央って呼んでって言ったのも、その後もセックスしたいって言ったのも僕だもん。本間さん、謝ること何もないでしょ」
我ながら、子供じみていると思う。
そうやって生きてきて、それを武器に女と寝て自分の外面しか興味のなかった女たちに囲まれて。
そうした自分を受け入れ、許してくれたのは佳織だけだったのではないかと思う。
だからこそ、彼女に惹かれたのだ。
そして、こんなにも自分の思いをぶつけてしまう。
「でも、隼人といるところ、見たく……なか…た……。嫌だ、嫌だよ……」
ぼろぼろと涙を脱がし、枕を濡らしながら泣きじゃくるさまは、本当に子供のようだった。
声に詰まり、嗚咽を漏らす。
「隼人のこと好きだし、本間さんのことも好きなのに、二人が一緒にいるの嫌……やだ……よ……だって、いっぱい、エッチしてるでしょ」
「それには答えません……もう。本当のこと、言っても言わなくても嫌がるくせに、先輩にそんなこと、聞くんじゃありません。ご飯、どうせ食べてないんでしょう?食事終わったら、あとで何か持ってくよ」
その後何かやりとりをした気がしたが、理央は疲れて眠ってしまった。
そのやり取りの内容を覚えてはいなかった。
ーーコンコン。
ドアをノックする音が、遠くで聞こえた。
スマートフォンで時刻を確認すると、二十時半。
理央は持ってきたメガネをかけて、ドアへと向かう。
ドアを開けた先に立っていたのは佳織だった。
どくん、と鼓動が速まる。
「ん。ゼリーなら食べられる?電話の感じだと、昨日寝られなかったのは本当でしょ?馬鹿だなぁ」
理央が口をパクパクさせながら戸惑っているのにもかかわらず、ずんずんと部屋の中へと佳織は進んでいく。
そして、佳織が買ったのであろう飲み物やゼリーの入ったレジ袋を内線電話の置かれた鏡台の上に置く。
そして、床に茶色のビジネスバッグを置いた。
「ほ、本間さ…ん」
佳織は鏡台の向かいにあるベッドの上に腰をかけた。
佳織はジャケットの上に、スプリングコートを羽織ったままだった。自分の部屋に帰らずに、そのまま来てくれたのだろう。
「おいで」
佳織の前に立ち尽くす理央は、声をかけられる。
理央は恐る恐る、佳織の右隣に座った。
顔が見られなかった。
「寝られた?」
「うん、あのあと、すぐ」
襟元の緩まったバスローブを直しながら理央は言った。