女らしく【番外02】『俺と彩と稲荷寿司』-5
「ああ、アイツはもう婿をもらった。私がいなくとも新しい家族ができた」
お前は婿をもらわないのか?
「ははっ!私の様な女を好いてくれる奴などよほど酔狂な奴だろうよ♪」
彩は笑ってはいるが、その笑い声は何処となく寂しそうだった…
「ゴホッ…ゴホッ……」
急に彩が右手を胸にあて、左手で口を押さえる。
「大丈夫か?最近よく咳き込んでるが…」
「ああ…風邪気味でな……」
段々と荒かった呼吸も治まってくる。
彩が楽になったところで、ふと尋ねてみた。
「なあ…俺じゃ駄目か?」
「何がだ?」
「婿…俺、酔狂なんでな…」
その途端、彩の頬に朱がさした。
「ななななな何を言っておる!?」
今まで見たことない程の慌てよう。
「やっぱり…嫌だよな…狐の婿なんか…」
「違う…あの…そのな…コホッ…」
真っ赤なままで、ゴニョゴニョと口ごもる。
「無理なのだ…私は…ケホッ…」
「ヒトだからか?」
「ちがっ…ゴホッ…ゴホッ…ガハッ!!」
何かを吐き出す様な咳。
明らかに様子がおかしい。咳き込み方も変だ。
「お、おい…彩…」
「ゲホッ!ゴホッ!……はぁ…はぁ…何とも…ない……大丈夫…」
しかし、ちらっと見えた手のひらには鮮やかな紅が塗られていた。
「馬鹿野郎!強がってないで家に戻るぞ!」
狐の姿に戻ると、背中に彩を乗せ、急いで山を降った。
彩はいつの間にか肺を患っていた…
彩自身もそれに気付いていたらしい…
けど俺は気付いてやれなかった……
日増しに症状は悪化していき、妹と俺がその看病をした。
始め、彩の妹は俺の本来の姿を見て驚いていたが、すぐに受け入れてくれた。
「すまない…式である俺が……」
布団の中…彩の肌はより一層白くなっていた…
「稲荷…話がある……」
か細くなった声で彩が言う。
何だ?
顔を彩に近付けた時…
弱々しい細い腕が俺の頭を掴み、自ら顔へ引き寄せていく…