女らしく【番外02】『俺と彩と稲荷寿司』-3
その途端、
「すまなかった…」
有り得ないことだった。こいつは急に謝った。
「な、何謝ってんだ?」
こいつはこんな風に謝ることなんて一切無かった。
「名が無いということはお前は呼ばれることが無かった…つまり家族がいないということだろ……」
それは同情や哀れみではなく、本心からの深い悲しみ…
そんな表情を見ていると何故かこっちの胸が痛む。
「私は各地で家族のいない者達を見てきた…
飢饉や戦乱…愛すべき者を失った者達を見ることは出来ても、救うことは出来なかった……私も親を戦で亡くした…」
こいつの悲しみの表情は尚も俺の胸を締め付ける。
「だから…すまなかった…」
ギュウギュウと胸の奥が軋む。
「なら…お前が名前つけてくれよ…そしたら、家族になれる」
その言葉に急に悲しみから、きょとんとした顔に変わった。
「それは私と夫婦になりたいと…」
「ち、違う!!」
「冗談だ♪」
ニヤリと楽しそうに笑った。
からかわれたからか、それとも夫婦なんて言葉が出てきたせいか、俺の心の臓は早鐘の様に打ち出す。
「それはさておき…名はどうするか…」
ふと、自分の膝の上に視線を落とし、すぐに満面の笑みで言った。
「稲荷寿司っ♪」
一瞬…なんだか分からなかった…
いなりづし?なんだそれ?
「この食い物の名だ♪ほれ、食ろうてみろ♪」
心を読んだみたいに甘辛い匂いを放つ茶色の塊を差し出した。
恐る恐る一口囓る。
「…うめぇ……」
匂いと同じく、油揚げの甘辛さと爽やかな米が口に広がる。
油揚げがこんなに美味いなんて知らなかった。
「そうか!ならもっと食っていいぞ!私の手作りだ!」
その後、彩の持ってきた稲荷寿司の半分以上を平らげ、気付いた。
「って俺は食い物と同じ名前か!!」
畜生やられた…
「やっと気付いたか♪別に美味かったのだから問題なかろう?稲荷寿司♪」
…美味かったけど……
他の名前は無いのか?