女らしく【番外02】『俺と彩と稲荷寿司』-2
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「離せっ!」
俺は突然やって来た一人の女に手も足も出せず、負けた。
「ああ、五月蠅い!少し黙っておれ!」
女とは思えぬほどがさつな物言い。
だが、キリッとした顔は化粧の類いを一切施していないにも関わらず、とても美しかった。
スッと俺に向かって、その女の手が伸びる。
「何をする!」
くそっ…俺も此所までか……
しかし…急に身体が自由を取り戻した。
「な…何で……」
この女は俺を封じる札を剥し、尚且つ縛った俺の身体をいきなり解放した。
「離せと言ったから、離したのだ。私は無益な殺生はせぬ。だから此所以外なら何処へでも行くが良い」
スッパリと簡単に言い放った。
だが、俺は出ていかなかった。
その言葉に情けをかけられたと思い、憎らしく感じた。
改めて挑んだ。
だが…
「また来たのか…懲りん奴だ」
幾度となく挑んだが、結果は全て惨敗…
「また来い♪」
最後はいつも同じ言葉だった。
だが、初めは憎かったはずの相手は次第に変わっていった。
近頃はそいつと会うのが楽しみになっていた。
「なんだ?今日はかかってこぬのか?」
この日、こいつは川でのんびりと釣糸を垂らしていた。
こいつに会うときは人間に化けていた。だが金色の髪だけは変えられず、人里に降りることは出来なかったが…
「うるせぇよ。俺だって馬鹿じゃねぇ」
こいつはよく山へ来た。
何でも妹がおり、その妹に山で採れた山菜や川魚を食わせてやっているらしい。
「そういえば、お互い名を聞いておらなんだな」
昼時となり、女は小さな包みから何やら茶色の塊を取り出しながら言った。
甘辛い匂いが鼻をくすぐる。
油揚げの様だが……
「私は『飯綱 彩』。お前の名は?」
「名前なんかねぇよ」
普通の狐の頃の記憶はもう無い。