ザ・レジデンス鶴来-1
遥太と蘭はバス移動で1時間と掛からずにザ・レジデンス鶴来のマンションの前までやって来た。
「ここに入るのも初めて?」
「勿論です」
そんな会話をしながら自動ドアを通って二人はエントランスへと足を踏み入れた。
正方形状の床タイルが幾つも広がり、天井は昼間の太陽にも見劣りしない明るい照明が床まで降り注いで来訪者を出迎える。また、エントランスの脇には住人用の郵便受けポスト及び宅配ボックスがあって、住人らが利用する為に設置してある。
カウンターテーブルを思わせる受付には、今は人は居ないが呼び出しボタンが置いてあり、トラブルや不都合が生じたりした場合は管理人を呼べるようになっている。
遥太はそんな所を細かく見たいワケではないが、憧れの人である小夏が普段利用していると考えると感慨深いものがあった。
「遥太君こっちこっち」
蘭に呼ばれて遥太は後を追う。
エントランスの最奥にはオートロックの扉が二人の行く手を塞いでいた。すぐ手前には数字の並んだ端末――インターホンが設置してある。
「‥‥っていうか何も考えて無かったんですけど、このオートロックどうやって入るんです?」
「ここから住居者に繋がる番号を押して小夏ちゃんに開けて貰うの。遥太君、ちょっと私の後ろで屈んで」
「え?」
「早く」
そう言うと蘭は小夏の住んでいる部屋の番号を押してコールのボタンを押す。
暫し待つと、小夏の部屋に繋がる。
『‥‥あれ蘭?どうしたの?』
「近くまで寄ったから来たの。開けてくれない?」
言いながらインターホンのカメラに寄る蘭。
『別にいいけど‥‥何だか画面に近くない?誰か側に居るの?』
「えー、そんなことないけどなぁ」
『‥‥ふーん。ま、いいわ。開けてあげる』
数秒後にインターホンが切れると、同時にオートロックの扉が開く。
「さ、行こ」
「これ帰りはどうするんですか?」
仕組みが分からなくてオートロックの扉を指差して尋ねる遥太。
「帰りは大丈夫よ。マンション側からだと自動で開くから」
「そうなんですか」
納得すると遥太は、一歩先に進んでいる蘭の後を追ってオートロックの扉の先へと進んで行く。