ヨウコと共に……-3
その数日後のことだ。
今夜ヨウコについた客はフランス人ビジネスマン、大柄で肥満気味、態度も横柄でアジア人を見下してるのがありありとわかる。
あまり気に食わない輩だが客を回してくれる店の手前、見た目だけで断るわけにも行かない。
ヨウコがその客と一緒に2階の小部屋に消えて行くのを見ると、ちょっと心配になる。
自分たちは『神の子』であり、黄色や黒い肌を持つ異教徒より優れた存在だと根拠もなく考えているような白人は、最貧国の一つであるこの国の女など奴隷か何かのように考えていることが多い、ましてヨウコのような子供ならなおさら……。
俺は受信機から流れて来る部屋の様子にいつにもまして耳をそばだてた。
「くそっ、入らねぇ……」
イラついた客の声とヨウコの呻き声……感じているときの呻き声とは違う、不快の色が伺える。
どうやら客のイチモツはサイズこそでかいが固さが足りない、いわゆるフニャチンのようだ、ヨウコの狭い膣に挿れようとしても押し返すような膣圧に跳ね返されて曲がってしまいなかなか入らずに腹を立てているらしい。
「うぐぅぅぅぅ……」
しばらくするとヨウコの呻き声が大きくなった、何とか挿入に成功したらしいが……。
「くそっ、これじゃ動けねぇ」
再びイラついた声、挿れるには挿れられたものの、締りがきつくてフニャチンでは思うように動けないらしい、内心(ざまぁみろ)と思ったが、こうイラついていてはヨウコが心配だ。
「うがっ……く、苦しい……止めて」
ヨウコの声、だが様子がおかしい、ヨウコの身体で大人のペニス、それもビッグサイズを受け入れれば苦しいのは知っているが、その意味での『苦しい』とは違って聞こえる。
俺は矢も楯もたまらず2階へと走り、小部屋のドアを勢い良く開けた。
「な、なんだ、てめぇ」
「お前こそ何をしてるんだ!」
客はヨウコにのしかかりながら首を絞めていた、そうやって自分の劣情をかき立てようとしている。
「止めろ! 殺す気か!」
「殺しゃしねぇよ、その加減くらいわきまえてる」
「相手は子供だぞ」
「ああ、知ってるよ、黄色い肌のな」
その言葉を聞いた時、俺は客に突進していた。
「ぐあっ、何しやがる……」
俺に突き飛ばされた客はヨウコから離れて壁に頭を打ち付けて呻いた。
「身体は売っても命まで売っちゃいねぇんだ」
「何も殺す気なんざねぇよ」
「止めてくれと懇願してただろうが」
「女の『止めて』をそのまんま受け取る奴なんかいねぇよ」
「感じてたわけじゃないだろう? 殺されるんじゃないかって恐怖がお前にわかるか?」
「殺すつもりなんかねぇって言っただろうが」
「お前ら白人はこの国の女になら何をしても良いと思ってやがる」
「身体を売って生きてるくらいだ、卑しい女には違いねぇだろうが」
「何も好き好んで身体を売ってるわけじゃない、そうでもしなけりゃ寝床も食い物も手に入らないから売ってるだけだ、裕福な国に生まれついたお前らにはわからないだろうが、生きるために精一杯なんだよ」
「けっ……ああ、わからねぇよ、下等な人間の考えることなんざわかるわけねぇ」
「俺は女を食い物にしてるゲス野郎だがな、女に対して最低限の敬意は持ってるつもりだ、人を見下すような傲慢野郎とは違う、ほら、金は返す、今すぐ服を着て出て行ってくれ」
「ああ、わかったよ、誰がこんなところに居るもんか、憶えてろよ、ここを紹介した店に怒鳴り込んでやる、お前があの店に二度と出入りできないようにな」
「ああ、構わねぇよ、やってくれ、それより早く出て行けよ」
「憶えてやがれ……」
客はそう捨て台詞を残して部屋を後にした。
「ドン、御免なさい、あたしのせいで」
ベッドの上でシーツを胸に当てながらヨウコが言う。
「ヨウコのせいじゃない、あのゲス野郎のせいさ」
「でも紹介させなくするって……」
「逆だよ、こっちがあの店に報告してやる、女の首を絞めるような客はどこだってお断りだ、あいつがどこの店でも出禁になるだけさ」
「そうなの?」
「ああ、裕福な国に生まれついたってだけ、肌の色が白いってだけでこの国の人間をバカにして何をしても構わないなんて考えるような奴は誰だって嫌いだ、ああいう男は『男たちのパラダイス』にとっても有害なんだ、あいつが落とすささやかな金を惜しんでパラダイスの評判を傷つけるようなことはさせないさ」
「ドン……?」
「なんだ?」
「ありがとう……あたし本当に怖かったんだ」
「こっちこそ怖い思いをさせて悪かった……さあ、上へ行こう」
俺はヨウコにシーツをかけてやり、横抱きにして階段を上がって行った。