糸の色-4
「……運命は自分で切り開いていくものだ、て、さっき言ったよな」
宏の予想外の反応に、驚いて横顔を見た。目線は白い子猫にあり、真剣な眼差しだった。
「俺は三年前、ここでひとつ運命の糸を掴んだんだ。それが最近になって、俺の勝手な思い込みだったんじゃないかと不安になっていた」
宏があきを見る。顔は真っ赤だった。
「あきも、俺と同じだったんだな。だから、急にここへ来たくなったんだろう?」
宏の言うとおりだった。はじめて聞く彼の告白に、あきの目から涙がこぼれた。素直になってよかった、と思った。
ふたりは顔を近づけてキスをした。
いつの間にか白い子猫は、手を伸ばせば届きそうなところまで近づいていた。その子猫が、まるで夕方に見かけた老夫婦の髪袋から飛び出てきたように思えた。
「運命は、ときにはふたりで切り開いていくものなのかもしれないな」
あきが子猫を抱き上げたときに、宏がつぶやいた。
照れた様子で頭をかきながら言う宏をからかうように、にやけた表情であきは言う。
「それって、もしかして、プロポーズ?」
「……さぁな。自分で考えろ」
宏はふっと笑ってからそう言った。
子猫は大人しくあきに抱かれていた。あきは宏に寄り添う。ふたりが見つめるのは、海なのか空なのか判別できない漆黒の闇。
ふたりを波が襲ってくる日があっても、陽が射して穏やかな日もある。
今はとても頼りなく繋がれた糸も、試練という波を乗り越えるたび、その糸は強固な赤い糸に変化していく。そう確信するあきなのだった。