次のセフレ関係-1
昼休み。遥太は颯人の誘いで一階にある食堂まで来ていた。
この時間となると、まさしく書き入れ時。学年、クラス問わず生徒らがやって来ている。
ただ、来ている全員が食堂を利用するというわけではなく、パンやおにぎり等の軽食の商品が売っている販売コーナーだけを利用する生徒も多い。
食堂では四人で一つの四角いテーブルの席がいくつか並んでいる。椅子は他の教室と違って円型の椅子だ。
遥太と颯人は一つのテーブルを二人だけで使っている。
「僕、ここで食べるの初めてなんだよね」
「そうなのか?」
「いつもだったら教室でお弁当食べてるし」
「あー、そういえばそうだったな」
何気ない会話をしながら昼飯を食べる二人。
遥太はお弁当を持ってきているので何も頼まず、自分のお弁当を広げている。一方の颯人は、食堂で買ったうなぎの蒲焼丼を頼んでそれを食べている。
「そういえば、教室出る前に女子達の会話聞こえたんだけど、音楽の七条先生体調崩して早退したんだってね。休み時間に話した時には元気そうだったのに」
自分のお弁当のエビフライを箸で掴みながら遥太は言う。
「もぐもぐ‥‥そうみたいだなぁ」
颯人は素知らぬ顔で、頼んだ際に一緒に渡された割り箸でうなぎの蒲焼きを頬張る。
その様子を不思議に思いながらも、遥太はある事を思い出す。
「あ、七条先生って春休み前に結婚したよね。お相手は確か隣町の中学の先生なんだっけ。颯人も知ってる‥‥あ」
遥太はエビフライを口に運ぶ前にそれに気づくと箸を止め、目を見開いて颯人の方を見た。
「颯人‥‥ま、まさか‥‥」
「ん?どうしたんだ遥太。そんな驚いた顔して」
颯人は口角を三日月状に吊り上げる。
その態度で自ずと遥太は理由を察してしまう。この人妻好きでセフレが多いという友人が、既婚者である七条先生と共にどこかへ行ったという事実を。
それでも本当かどうか真相が知りたくなって、食堂という他の生徒もいる手前なので、顔を近づけて小さな声で尋ねる。
「‥‥七条先生は颯人のセフレで、居ない間にセックスしてたの?」
二つの問い掛けに対して颯人は、
「両方当たり」
と、短い返答で答えた。
「‥‥だから、うなぎ食ってんのか」
遥太は食べている物まで理由を察してしまう。
「いや、うなぎなのはそういう気分だからだよ。暫く食べてないから奮発してな」
「本当に‥‥?」
友人を疑いの眼差しで見つめる遥太。
「本当だって。何もないなら迷わずカツ丼だって。だって食堂のカツ丼なら490円だけど、うなぎの蒲焼き丼なら590円だぞ?この100円の差はかなりでかいぞ。ウチの学校なら自販機でジュース買えるんだ」
けどさ、と颯人はうなぎの蒲焼きのタレを割り箸で指し示す。
「このうなぎの蒲焼きのタレは熟成された旨味があるんだよ。この値段の高さ以上の旨味があるんだよ。分かるか?」
「あぁ、その理屈なら――」
理解できる、と遥太は頷きかけたが、
「だから独身時代から七条先生の事狙ってたんだよ。あの人は既婚者になったらもっといい女になるって。夫という人が出来る事で熟成された旨味になるってさ」
「‥‥ごめん、その理屈は分からないや」
おそらく美味いものを食べて上手い洒落を思いついたのだろう。が、遥太は敢えて口に出して言うまい、と首を横に振ってエビフライを口に運んだ。
「ま、あの先生腰立たなくなるまで中に出してあげたから今頃子宮の中でおたまじゃくし達が楽しいリズムを奏でているんだろう。音楽の先生だけにな。アハハッ」
「‥‥‥‥」
笑いながら告げた友人の不穏なワードを耳にして、遥太は何も聞かなかったことにしたかった。
それにしても、七条比奈までもセフレの一人とは改めて手白木颯人という男は、自分の友人はすごい奴だなと遥太は実感した。
前に見た野畑蘭もかなりの美人だが、七条比奈も負けず劣らずの美人だ。それをセフレにしているなんて、彼はかなりのヤリチ‥‥いや、やり手だ。
彼の様子では一人や二人だけでは無さそうだし、もしかするとこの校内にまだセフレが居るのではないか?
「(ま、今聞くのは止めておくか‥‥)」
その事は興味が全くないわけではないが、ここで尋ねるのはさすがに自重した。
「‥‥というか言い出しっぺだけど、この話止めようか。ここ一応食堂だし」
周囲の生徒は会話に集中して聞いていないようだが、さすがにTPO的にもアウトだと判断して遥太は話を早々に切り上げた。
「そうか?これからもう少し行為の事も具体的に言うつもりだったんだけど、残念だ」
本当に残念そうな顔で興味をなくすと、うなぎの蒲焼き丼を食べ始める颯人。
「(うん、止めて正解だった)」
遥太は胸中でホッとして、自分で自分の事を褒め称えたくなった。