友人の家にて-3
「へぇ。遥太もあのアニメ観てたのか。俺も観てたよ」
「うん。今でもお気に入りだよ」
得意気に友人に語る遥太は、つい一時間半前まであった戸惑いもどこへやら、という感じだ。
二人の間には途中で颯人が台所から持って来て広げたお菓子のポテトチップスと、冷蔵庫に入れていたペットボトルのスポーツドリンクを注いだコップが置かれていた。
「スターセイバーは第二期から恋愛要素強くなったのは失敗だと思う。特にヒロインのアリシアの構ってちゃん化はネット民もキレてたけど、俺も許せない点だな」
「確かに。声優さんに罪は無いとはいえ、あのヒロインは空気読んで無かったな。仲間を失った直後にフォローさせられる主人公のライドが観ていて可哀想だったね」
二人は好きなアニメで会話出来るくらいには打ち解け合い、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
すると、ピンポーン‥‥と、アパートのチャイムが鳴って、二人は会話途中に玄関の方をほぼ同時に見る。
「ん、宅急便?」
「え、まさか‥‥」
来客の主を通販の宅急便ドライバーと予想する遥太に対して、颯人の表情が途端に曇る。
――ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。
続け様にチャイムが連続で鳴り響く。
「あーもう!はいはい、出れば良いんだろ。出れば!」
多少苛立った様子で颯人は立ち上がると、急ぎ足で玄関先まで向かう。靴をそそくさと履いて、玄関のドアを開ける。
「ちゃおー!来ちゃった♪」
明るい口調の女性の声が部屋の奥まで響く。
「来ちゃった♪じゃないですよ、全く‥‥」
額に手を当てて呆れた様子の颯人の後ろから遥太は興味本位からそっと覗き込む。
女性の年齢は三十代前半。髪は金色のセミロングヘア、顔は女性芸能人に居そうな美貌。化粧は濃い目で、赤いルージュが際立っている。
上はピカピカと反射するド派手な真っ赤なスーツ、下はぴっちりした同系色のタイトスカートを履いている。スタイルは出るとこは出て、締まるところは締まっている、という感じだ。
女性はいかにも夜のホステスのような出で立ちであり、ブランド物と思しきクリーム色のハンドバッグを提げている。
「‥‥あれ?もしかして友達来てるの?」
部屋より先に玄関先に並ぶ靴を見て女性は判断する。
「友達が来るから今日は来るなって前もって連絡して伝えてた筈でしょ」
颯人は断った明確な理由を主張した。
「それはてっきり嘘だと思っちゃった。前みたいに他に女を呼んでるんじゃないかって」
女性は言いながら足のハイヒールを脱いで家に上がり込もうとする。
「それは‥‥!って、友達の前で余計な事は‥‥!」
一瞬、口ごもる颯人であったが気を取り直して慌てて入るのを止めようとする。が、それより早く部屋に上がり込んだ金髪の女性は、奥に居た遥太と目と目が合う。
「あ、こんにちは〜」
「こ、こんにちは‥‥」
にこやかに微笑む金髪の女性に対して、緊張しながらも挨拶をする遥太。
「颯人君のクラスメイト?」
「あ、はい。同じクラスです」
「今日初めて来た感じ?」
「はい、まさしくそんな感じで」
相次ぐ質問攻めに答える遥太であったが、見知らぬ相手に緊張して目が泳ぐ。早くも人見知りが発動していた。