友人との出会い-1
5月のGW明け。高速道路での帰宅ラッシュによる長蛇の列のニュース映像も記憶にまだ新しい、今日この頃。
連休が終わると人々は当然のように日常生活の暮らしへと脳内をシフトチェンジするわけだが、誰もがそう簡単に切り替えられるわけではない。ましてやそれが大人ではなく子供ならば。
Y市にある私立原之坂高校。本日はGW明けのからの登校日だが、男女ともに全ての生徒が連休気分が抜けきっていない。
校舎へと赴く生徒らの顔は、夜ふかしでもしていたのか欠伸をして気だるそうだ。
原之坂高校は生徒数340名。制服はブレザーで色は深緑色。付けるネクタイもブレザーと同系色。ズボンとスカートはチェック柄のグレー色だ。
クラスは3学年4クラスに分けられている。本校は学年と階層が一致していて、校舎の西側から一組、二組‥‥と続いている。
部活は予選落ちが恒例で、目立っている部はない。最も部の活動は強制ではなく、本人の自由意志なので無所属の生徒も多い。
進級して二年四組になった牧田遥太(まきたようた)も、その無所属の生徒の一人であった。体型は中肉中背でパッとしない顔立ち、ゲームとアニメが好きな少々人見知りな男子である。
他の生徒らと同様に学校へと登校する彼の足取りは、GW明けの登校日という理由だけでなく、また別の理由から石のように重い足取りであった。
「おはよう牧田君」
「お、おはよ」
クラスの自分の席に着くなり、挨拶してきた愛想の良い女生徒に、遠慮がちに挨拶を返す遥太。女生徒の方は今入って来た友人らの方へと駆け出して行った。
遥太はその後ろ姿を視線で追わず、ため息をつく。
先月の進級によるクラス替えで面子の変わったクラスメイト達。その顔ぶれは遥太が仲良くしてきた面子とは違った。社交的な挨拶ぐらいは交わすものの、特に仲の良い生徒は今は居ない。
元から友人を作るのが苦手な遥太にとっては今回のクラス替えは一種の拷問にも等しい行為であった。
ちなみに遥太の席は、廊下側の一列目一番後ろの席である。
「(切っ掛けの話題とか自分で言わないと駄目かな‥‥)」
胸中で呟いた内容。どれだけ困難なのかは、自分自身で理解していた。
GW前、少しでも友好的になるように誰かと遊ぶ約束でもしてれば良かったが、それももう叶わない願いだ。
「(それにしても知り合いが誰一人居ないって結果になるなんて‥‥)」
一年から三年までクラスは全部で四組まであるが、一年生の時に仲の良かったメンバーが総入れ替えで自分と別のクラスに行くとは、さすがに予想していなかった。
遥太はその場で教室内を見渡す。
まだHR前なので全生徒来てるわけではないが、教室内に居る生徒達は名前と顔が一致しない生徒が多い。
「(さっき挨拶して来た女の子‥‥名前は確か柏木梨恵(かしわぎりえ)さんだったけ。一応覚えたけど)」
まだほとんど名前を覚えていない遥太だったが、挨拶して来る女の子は覚えていた。柏木梨恵は、可愛らしい顔立ちのショートボブの女の子だ。今は他の女生徒と楽しげに談笑している。
挨拶を切っ掛けにして今後仲良くなれそうではある。が、今の所は挨拶しているだけだ。つまり、向こうからすればただ社交辞令の可能性もある。
それに彼女は遥太と違って、同性の友人にも恵まれているようだ。今談笑している子もそうだし、他にも何人かの女生徒と話しているのを見たことがある。女子のグループの中に加わるのは流石に遥太も億劫であった。
「(他に仲良く出来そうなのって‥‥)」
遥太は再びキョロキョロと教室内を見渡す。
堂々とアニメ雑誌を開いて見ているボサボサ頭の男子。名は出て来ない。クラス内でもオタクの愛称で呼ばれているし、アニメなら一見話も合いそうだ。
「(けど、あの人は自分で語ってたけどエロ特化の美少女アニメ中心なんだよな。僕が見るのはもっとライトな層向けだからジャンルが違う‥‥)」
それに、一緒に居てクラス内で小馬鹿にされるのはちょっと抵抗があった。呼ばれている本人には非常に悪いが。
だが、堂々と教室内でアニメ雑誌見るという行為は遥太の中ではある意味で尊敬の域に達していた。自分なら出来ないからである。
遥太はその男子を忘れて、他の生徒らに視線を移す。
偶然、視界の端に留まったのは顔立ちの整った爽やかな印象の男子だ。陸上部所属の古賀奏馬(こがそうま)である。彼の名前は覚えていた。
奏馬は、二人の友人と身振り手振りを交えて盛り上がっている。
「(あーいうのって自分とは真逆のタイプで何か見ていると劣等感感じるんだよね)」
遥太は彼を視界に入れたことを軽く後悔した。
4月に進級した際に自分が無所属な事を知っていたようで、陸上部にスカウトしに来た事があったが、見た感じ奏馬は陽キャラ側の人間だし、自分とは価値観が合わなさそうで、遥太は彼とは仲良く出来ない事を察して丁重に断ったのだ。
「(うーん、けど考えてみたらこのクラスで僕が会話した事ある数少ない生徒ではあるんだよな)」
だからといって、もっと仲良くなんて出来そうには無かったが。
結局、朝のSHRまでそんなことばかり考えていた遥太であったが、特定の誰かともっと仲良くなるという結論は出なかった。