奔放 2-1
人間は、命がある限りいつでもやり直しができる。
幼い頃から何度も耳にしてきた言葉。
「奔放 2」
彼女が姿を消してふた月が過ぎようとしていた。
ふた月の間、雲の上を歩いているような感覚でやり過ごした。
彼女の失踪、いや出奔と同時に部活を引退した俺には性根を入れて打ち込めるものがなく、このまま何もするでもなく生きていくことになるのだろうかと思った。
人は、精神の均衡を崩すとまっすぐ立っていられなくなる。あの頃の俺はまさに、そんな腑抜けた状態だったのだ。
不思議と彼女の行方を追う気にはならなかった。それはしてはならないことのような気がしていた。
彼女が出奔してから一週間は、今思えば錯乱していたのかもしれない。新聞の死亡記事などを毎朝夕に確認し、名前がないことがわかるとしばらく動けないほど安堵した。
そんな中、噂が噂を呼ぶようにして高橋にまつわるよくない話が校内に溢れていた。俺は興味がない風を装っていたが、常にその類の話には聞き耳を立てていた。
しばらくして騒ぎが大きくなることを危惧した担任が明かした事実。
高橋の所在は、彼女のたっての希望で明かすことはできないが確実に生きていること。
彼女が生きている。その事実を聞いた夜は久しぶりにゆっくりと休めた。単純なものだ。
彼女がどういった理由で俺達の前から姿を消したのか、その理由はわからないままだった。当初はその理由を知りたかったが時間が経つにつれ、それは知る必要はないのかもしれないと思うようになった。きっと、俺の知らない彼女の顔を知ることになる。彼女はそれを望まないだろうと思っていた。だから彼女は俺に告げずに誰にも気がつかれないように闇に紛れて街を出たのだ。
日立や佐藤はしばらくの間彼女に関する情報を集めていたようだったが、やがてぷっつり捜すことをやめてしまった。
俺は、その理由も聞けないでいる。怖いのだ。
「塚田。先月から気になってたんだ。様子がおかしいから」
日立はいつも唐突なのだ。こちらの心を見透かしたような言葉を簡単に口にする。その言葉に内心動揺するが冷静を装う俺を哂うかのように。
特別暑かった夏も終焉を迎えようとする、太陽の光がやわらかくなりつつあった頃の放課後だった。そんな時だった。日立からあの話を聞いたのは。
昔から、俺が高橋に特別な感情を持っていることを日立に悟られているということはわかっていた。わかっていたが、特別どうこうしようなどと思ったことはない。高橋は日立と共に歩き、俺はその背を見つめるしかない。それはそれで仕方のないことだと思っていた。黙殺するしかない。