元妻-5
「あっ…」
おにぎりを齧った瞬間、まだ具に到達もしてないうちに、あな大好きだった梨紗の明太ツナマヨの味に包まれた修。目の前の世界が真っ白になった。
「た、高梨さん…!?」
何故か驚いたような顔をする梨紗。
「え?」
「ど、どうかしました!?何か変なモノ入ってました!?」
慌てる梨紗が不思議だった。
「いいえ…?な、何でですか…?」
「だ、だって…、涙流したから…」
「えっ!?」
修は言われて初めて気がついた。目から涙が溢れていた事を。修は動揺し、慌てて涙を拭いた。
「いや、ハハハ…あまりに美味すぎて…」
「えーっ?ホントに大丈夫ですか?何か間違えてカラシとかワサビとか入れちゃったかなっ…」
「いやいや、ホント美味いです。美味しい。」
気を取り直してムシャムシャ食べる修。
「何か、おにぎり食って泣くとか、変な奴ですよね、これじゃ…」
「そんな事ないですよ?」
「慰めてくれてありがとう。」
「いえいえ」
元妻とぎこちない会話をしながらも、何となく幸せに感じる。
(でも何か、元の人生で会った時よりも疲れてるな。)
元の人生で初めて会った梨紗はメイクも丁寧で、髪の毛もサラサラで多少なりとも洒落っ気があった。だが目の前の梨紗はメイクも取り敢えずと言った感じで髪は後ろに束ねただけ、髪質も少し傷んでいるように見えた。何よりも顔が少しやつれているような気がした。
「もう結婚されてるんですね。」
「あ、はい…。お恥ずかしながら大学2年の時に妊娠してしまって、旦那は社会人だったんで、そのまま籍を入れたんです。式はやらなかったですけど。」
修は梨紗との挙式を思い出した。白のウェディングドレスを着た梨紗はまるで妖精か女神のように美しかった。そんな梨紗が挙式をしていない…、ウェディングドレスも着ていない、修はそれにもショックを受けた。
「子育て、大変そうですね。」
「あ、そうですね…。大変です。夫はいつも仕事帰りが遅いんで、保育園への送り迎えは行かなきゃならないんで、みなさんにご迷惑をおかけして申し訳なくて…。」
「それは平気ですよ?うちの会社、そう言う事には協力的なんで。」
「はい、皆さん優しくて。だから仕事を早く覚えて恩返ししなきゃって。」
「そんな事考えなくていいんですよ?疲れちゃいますから、気楽に行きましょう。」
「ありがとうございます。」
梨紗の大好きな笑顔に再会できて嬉しかった。しかしどこか疲れた笑みに疲れを感じ、少しだけ胸が締め付けられた修であった。