奔放 1-1
高橋がいなくなった。
闇に紛れて街を出た。
俺に告げないまま。
「奔放」
もし告げられていたとしても、俺は何もできなかっただろう。
そう思うたびに握り締めた拳が痛むのだ。
あれから半年。
季節も変わってしまった。時間の経過と共に、高橋がいた頃となんら変わりのない風景が戻ってきたかのように思う。
そう、こうやって繰り返すのだ。
俺は自分の無力を拳で感じながら、無為に季節を見送っていくのだろう。
高橋は「優秀な」生徒だった。
友人も多く、教師からも信頼されていた。その責任感の強さと意思の強さは同じ生徒会の執行委員として2年以上時間を共有してきた俺がよくわかっていた。
そう思う俺は、結局は彼女のことを何ひとつわかっていなかったのだ。
それに気づかされたのは彼女の出奔後、狼狽を隠しきることができない俺に投げかけられた、彼女の恋人である日立の言葉だった。
「香織の御両親、1年の時に亡くなってたんだ」
高橋とはよく話した。
竹を割ったようなはっきりとした性格が気に入っていた。俺と高橋の間の空気は、少なくとも俺は無用な気遣いを必要としていなかった。彼女といると不思議と気持ちが落ち着いた。
一緒にいることがどこか当然のように思えてきていた2年の冬。
用意していなかった言葉が口をついて出て、気がついた時には彼女の口からは謝罪の言葉と日立の名前が発せられていた。
・・・好きだった。
高橋を見ていたのは日立よりも俺だったと。一度芽生えた思いはそうたやすく枯れるはずもなく、行き場のない思いを秘めたまま、それでも穏やかに日々は流れていたはずだった。