奔放 1-3
佐藤の話を高橋と一度だけしたことがある。
「小夜子って本当にいい子。他人から嫌われることに耐えられない人なんだよね」
高橋が佐藤のことを親友と言う割に、彼女の佐藤評は冷酷な雰囲気に包まれているような気がした。
「どんな奴でも、すべての人に好かれるなんて不可能だろう」
言いながら、俺は佐藤の誰が目にしても我知らずため息がでるような美しい表情を脳裏に浮かべていた。彼女なら可能かもしれない。
「でもね、嫌われることを怖れる小夜子に嫌いな人なんて一人もいないし、同じ理由からすべての人に好かれるんだよ」
「わかるような気もするな」
軽く嫉妬にも似たような感情を抱いてしまうほど、高橋は佐藤を知りつくしているかのような口上だった。
「わたしには無理。嫌いな人がたくさんいるし、わたしの言うことはいつも人を傷つけてばかりだし」
「それを楽しんでいるように見えるが?」
「塚田も酷いこと言うんだね。わたしはただ、人がどんなことに傷つくのかを知らないだけだよ」
高橋は女子の群れに入ることができない人間だった。
高橋自身がはっきりと言ったわけではなかったが様子を見ていれば火を見るよりも明らかなことだった。彼女たちと同じ教室で、同じ制服を着て、同じ空気を吸っているのに高橋は少し違っていた。どちらかというと男勝りなところが目に付いていたのかもしれない。
「香織のこと考えてるの?」
張り詰めた静寂を彼女の言葉が裂き、俺は窓の隙間から入ってきた凍てつく風に自分でもわかるほどに肩を揺らした。
「ねえ塚田君、香織のこと捜したって本当?」
近況を伺うかのように軽い口当たりで重たい言葉を舌の上で転がす佐藤。
そう、あれは4か月前のことだった。