奔放 1-2
夕日の差し込む教室の窓際の机に腰掛け、ただ呆然としていた。
誰もいない教室に、ただ一人。
冷えた左頬に当たる光がじんわりと皮膚の温度を引き上げていく。
「塚田君」
囁きが耳に届いて、視線だけを動かした。
机に落とされた影。
「まだ帰らないの?」
顔を見なくてもわかる。乾いた空気をしっとりとぬらすかのような湿っぽい佐藤の声。
彼女のことを高橋は「親友」と呼んでいた。
俺と佐藤は毎日廊下ですれ違った。
高橋がいなくなってからは佐藤を見る度に妙な感情に支配されそうになるゆえに、極力顔を見ないようにしていたにも関わらず、だ。
すれ違っても、どちらも目を合わせるだけで会話はおろか挨拶もしようとしない。要するに、俺と佐藤はもう半年も口をきいていなかった。
「帰る気にならなくてな」
突然の会話に内心戸惑ったが、外見的にはいつも冷静でいられる人間だったので何とか応えることができた。
「次、いつ?」
影が伸びる。彼女の声が大きくなる。視線を遣ると目が合った。
「塚田君は推薦受けてないのよね?」
この時期に、この質問とくれば回答は決まっていた。
大学受験を控えた冬、自由登校になったこの時期に登校しているのはほんの一握りの生徒だった。
「2月だ」
「来月か、そっか国立少し早まったんだっけ・・・」
佐藤は単に笑うというより、「美しく微笑む」という方がぴったりな表情を浮かべて俺を見た。その視線にやるせなさを覚える。
佐藤は、高橋のいないこの学校にいる。いつも「美しく微笑んで」いる。悲しげな表情を見せることもない。日立とつきあい始めたという話を聞いた。けれど、俺にも、誰にも彼女を責める権利ははい。佐藤を軽蔑することはできない。
けれど俺は納得できなかった。