『素直な気持ち』-2
「まぁ俺も本命いるけどね。」
…今なんて?拓未本命がいたから誰とも付き合ってなかったの?
「本命?」
「そうだよ。俺に本命がいちゃおかしいのかよ?」
「ううん」
どうしよう。今まで誰とも付き合ってなかったから油断してたけど、本命にコクられたら付き合うんだ!そんなの嫌だよぉ…。でも落ち込んでたら、変に思われちゃうよね!
「そっか!その子はよっぽどナイスバディなんだろうね!あたし協力してあげよっか?」
あたし何言ってんだろ!でも拓未の本命が誰か分かるかも!?
「ほんとに協力してくれんの?」
「うん。誰だれ?あたしも知ってる子?」
「じゃぁ協力してもらおうかな。」
彼はそう言うと、私を床に押し倒した。私の腕は彼によって身動きがとれないように押さえられてしまった。
「ちょっ…!何すんの拓未!やめてよっ!」
「協力するって言ったじゃん?俺はお前とこうしたかったんだよ!」
彼は私の口を無理矢理ふさいだ。唇を押し付けられ、舌で舐められる。唇に力を入れて彼の侵入を防いでいたつもりなのに、彼は簡単に舌をねじこんできた。
拓未本気なの?あたしが本命だったら嬉しいけど、こんな無理矢理は嫌だっ!まるで拓未じゃないみたいだよ…。
でもしっかり押さえられていて逃げられない。私は怖さがこみあげてきて涙がこぼれ落ちてしまった。
すると彼は私から体を離した。
「本気にした?」
えっ?
私は怖さと今の言葉の意味が分からないのとで、言葉を返せなかった。
「冗談だよ。お前のこと好きになる奴なんていないって言ったろ?」
「ひどい…。なんでこんなこと…」
「簡単に男の部屋入って、無防備なお前が悪いんだよ。ちょっとからかっただけ。さすがに泣かれたのには困ったけどな!」
彼は冷たい口調で言い放った。
うそ!拓未ってこんなことする奴だったの?ケンカはするけど、本気で人を傷付けるようなことはしない人だと思ってたのに…。
私は思わず立ち上がって自分の荷物をつかんだ。
「どこ行くんだよ!」
「帰る!」
「まだ雨降ってるぞ!待てよ、加奈!」
玄関へ向かっていた私の腕を彼がつかんだ。
「離してよっ!」
あたしの気も知らないで、何よ!もうやだぁ…、最低!
私の目からは涙がボロボロ溢れていた。そんな顔も彼には見られたくなかった。
「ゴメン…」
彼は一言謝って、私の体を抱き締めた。私が抵抗しようとすると、彼は一層強く抱き締めた。
「こんなことするつもりじゃなかったんだよ!お前に好きな奴がいるって知ったらムカついてきて、思わず無理矢理…。ほんとは…ほんとはお前のことむちゃくちゃ好きなんだ!」
「そんなの信じられるわけないじゃん!また冗談とか言うんでしょ!」
さっきの拓未はほんと怖かった。好きならあんなひどいことしないよね?
「さっきのは謝る。どうしていいかわかんなくてつい…」
彼の声はさっきのキツイ口調とは変わって、ほんとに困っているような感じがした。
「ほんと…?ほんとに拓未の本命はあたしなの?」
私は彼の目を見て問いかけた。
「そうだよ!俺はお前以外の奴と付き合う気なんて最初からないんだよ!」
「ほんとにほんと?」
「ほんとだよ。俺のこと信じて…。」
なんだぁ、あたしのこと嫌いなわけじゃなかったんだ…。拓未もあたしのこと好きだったんだ…。
私はさっきまでの恐怖心が消え、全身の力が抜けていくようだった。そして彼の胸に体を預けるようにもたれかかった。
「ばかぁ…。すっごく怖かったんだから…。」
今度は嬉しさのあまりに涙が溢れてきた。
「ほんとにゴメン…。傷付けるようなことしちゃって。」
「怖かったけど…、嬉しい。」
「はっ?」
「嬉しいって言ってんの!あたしだってずっと拓未のこと好きだったんだから!」
私は今まで言えなくて我慢していた言葉を次々と声に出していた。今なら素直な自分が出せる気がした。
「うそ!だってさっき協力するとか言ってたじゃん?」
彼はびっくりした顔で聞き返した。
「だってあたしが好きなんて言ったら、もう拓未と話せなくなると思ったから…。」
「なんだよぉ、俺のことなんて眼中にもないのかと思ったよ〜。」
「ゴメンね、今まで素直になれなくて…。」
私は彼の背中に手を回し、ギュッと抱きついた。
「もう!めっちゃ可愛い!」
彼はそう言って私に唇を重ねた。やわらかい唇からは彼の温もりが伝わってきた。
彼は一度唇を離し、私とおでこをくっつけた。自然に目と目が合ってしまう。