阪井泰斗/二度目のマッサージ-2
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数日後、泰斗は意を決して、もう要らないと言われたメンバーズカードに記載されているメールアドレスにメールを送った。
もちろん、下心がそこにはあることは疑いようがない。
《飯塚様
先日オイルマッサージを担当致しました阪井です。阪井泰斗と申します。
先日は申し訳ありませんでした。お手隙の際に返信くださると幸いです。(阪井)》
何とメールを送っていいかわからなかったが、返信が返ってくるかさえわからなかったから、返信を待とうと思った。
メンバーズカードには、名前や、生年月日などを本人が記載するようになっているから、あのカードの字は本人の字なのだろう。
読みやすい、とても綺麗な字だった。
冴子は休みだったようで、その日のうちに返信が返ってきた。
土日で休みの日があるのかと聞かれ、ちょうど来週の日曜日が休みだと連絡すると、その日、オイルマッサージを依頼された。
待ち合わせは、新宿駅から電車で二十分ほどの駅だった。
今の店舗になってから新宿付近に住んでいる泰斗は、ほとんど家と仕事の往復で、電車に乗ってどこかに行くことなどは稀だった。
当日は、白いシャツに黒のジャケット、その上から丈が長い黒の厚手のコートを羽織り、黒のリュックという出で立ちだった。
もう言い訳などはできないが、なるべく冴子には清潔で、真面目なふうに見られたかった。
少し時間より早めに着いて、指定されたコンビニの前で待っていると、時間ぴったりに冴子が現れる。
白のタートルネックのニットに、黒のロングスカート。茶色のショートブーツ。
その上からベージュのコートを羽織っていた。
胸元まで伸びた髪は丁寧に巻かれ、耳元にはゴールドのフープピアスが光る。
「待ちましたか?泰斗くん」
「泰斗くん」と呼ばれ、泰斗の胸がどきっと高鳴る。
先日のことなど何もなかったかのように、にこっと冴子は微笑む。
「いえ、少し早く着いたくらいで……」
「ふふ、緊張してるの?じゃ、ホテル行こっか。今日はちゃんと最後までしてよね」
手のひらをグーの形にして、冴子は肩を小突く。
冴子が歩き出すと、泰斗はその後ろについて行った。
「…先日はすみません」
その言葉に、ちらっと冴子が振り返る。
「本当に思ってんの?」
クスッと笑って、泰斗の右腕に腕を絡みつかせる。
泰斗の右腕にふわふわの胸が押し付けられた。
今日は真面目に、紳士的に、接しようと思っているのに……
泰斗の脳内があの日したセックスのことでいっぱいになった。
しばらく歩くと、とあるシティホテルの前に着いた。
フロントの女性が、冴子の顔を見るなり「本日もありがとうございます」と言う。
泰斗はぎょっとしたが、冴子がいつもこのホテルを使っているのだということがわかった。