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花のごとく
【熟女/人妻 官能小説】

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花のごとく〜蜃気楼エクスタシ〜-1

そっとそっと思い出す。あの夏の日の蜃気楼。


七月に入って気温がぐんと上がった日に、高校三年の進路決定前だからといって俺のクラスでは授業参観が行われた。
クーラーもなく風通りが悪い教室には母親達の化粧のまざった香りが広がり、白い砂の校庭からは太陽光がこれでもかと反射してくる。
蒸しきった暑さで、額から汗はだらだらと流れ落ちてゆき、朝から気分の優れなかった俺は思わずしかめ面になった。

夏本番を目前にして加熱してきた受験勉強は毎晩深夜に及び、昨夜も2、3時間しか眠れていない。
変に冴えた頭とけだるい体に、苦く酸っぱいような吐き気が広がってゆく。
できるだけ黒板に集中しようとしたが、チョークの音や教師の声がなぜだかぼやけて遠くにきこえた。
これはまずいな、と思い、気分転換にけだるい首を起こし、クリーム色のカーテンがかかっている窓から体育館の赤い屋根を見上げた。
色あせた赤色にさんさんと太陽はふりそそぎ、その上にははてのない青空がひろがっていた。青葉きらめくなかに蝉の鳴き声が響き、なんとも言えない切なさが淡く胸にひろがる。
額が汗で濡れているのに気がついて、手の甲でそれを拭った。手は指先までひんやりと冷たいのに、額は沸騰したように熱かった。

その時、一人だけ遅れてやってきた人がいた。
それが智子さん。
薄い水色の浴衣をさらっと着こなし、髪をきれいに結いあげていた。

「遅れて、ごめんなさい。」

そう、涼しげに告げると教室の隅に行き、白いレースのついた扇子をぱたぱたと煽りはじめた。
笑顔で娘の高花香織に手を振る。
それに気づいた高花は、一応母親に笑ってみせたものの、すぐに前を向きいつものきつい表情をうかべた。
そんな高花をみつめる智子さんの瞳は、細く黒目がちになり、きゅっと口角をあげた口元にはやわらかいシワができた。そしてその頬はとても艶やかでやわらかそうだった。





うるさいセミの鳴き声。
目の前は白い天井。
ベッドの中でゆったりと上半身を起こし、枕元のタバコに火をつける。
寝ている間に切れてしまっていた冷房を付け直し、したたるようにかいた額の汗を手の甲でぬぐった。
寝息をたてる智子は横にいた。おれそうなほど長細い首筋に、髪の毛を一本一本汗ではりつけている。暑そうにうなっていたので、おいてあったストライプのタオルを引っ張り出し、丁寧に拭ってあげた。


さっき見たのは智子さんと俺の出会いの夢。二年前、俺が高校生だったころ。
あのときの智子さんの浴衣の柄までありありと思い出せる。
あれから色々な事があって、今もこうして一緒に居るわけだけれども。それにしても、しかし――………。

タバコの煙を吸う。煙が苦く口の中に広がり、舌にしみた。


フランス語の筆記文字のように滑らかな曲線でつむがれている横顔。陶磁器のような肌、ぷっくりした唇。

智子さんは、ひとり変わらず夢から抜け出してきたような姿をしている。


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