Sweet Fragrance〜ラストノート〜-1
「亜希ぃ〜!!」
友達のゆかりちゃんがいつもにまして高く嬉しそうな声で呼びかけてきた。
「なに?」
「あたしねーまた達也と付き合うことになったの。」えっ……
「ほんとっ。…どうしたの」「やり直してって言われたの。達也はあたしが大好きなの。あたしね…わかったの」
ゆかりちゃんはきれいなまつ毛を伏せる。
「好きな人にね、振り向いてもらえないってすごく心が痛むんだなって」
「…誰かに振られたの?」
心のゆとりを取り戻しながらあたしは聞く。うん、って返事をどこかで期待して。
「ううん。あたしね、この間、恋のキューピットになったの。男の子の方のお手伝いをしたんだけど…コクる前、ぶるぶる震えて緊張してて、なんだかかわいそうだった。あたしおもわず女の子の方に優しくしてあげてって…まぁ付き合ってあげてって言うのと同じね、彼女に頼んだの。」
あたしは黙って聞いた。
「今二人付き合ってるんだけど、すごく楽しそう。だから…あたしも達也の気持ちに答えたいの。そうしてね、達也と本物のカップルになって、こんなあたしとはバイバイするの。」
ゆかりちゃんはすでに変わっている、とあたしは思った。あの子が恋のキューピットになるなんて。あたしは悲しくて、苦しくて、悔しかった。達也のことじゃない。こうなるのはずっと前からわかってた気がするから。そうじゃなくて…どんどん変わってゆくゆかりちゃんに追い付けない気がしたんだ。
ゆかりちゃんはやり直そうと言ってきた達也に抱きついて、あたしもそうしたかったのって泣きながら言ったそうだ、後日達也ファンが言っていた。
「あの、ね…亜希が達也のこと好きって言ってたの覚えてて…あの、それでほんのちょっぴりためらったの!あのね、亜希…本当の本当にごめんなさい。」
「いいの!ゆかりちゃん、幸せになってね!」
あたしはゆかりちゃんのほっぺを両方の手のひらではさんで、言った。
なぜかあたし、この時、今まで絶対勝てなかったゆかりちゃんに、優越感を感じたんだよね………
「――――というわけ。あたしは結局失恋よ。ゆかりちゃんに負けて…ね。」
あたしはいつも相談にのってくれる幼なじみの悠斗に全部話した。
「マジか…なら俺も失恋だ。」
「え?あ…そうか。ごめん」悠斗はゆかりちゃんが一回目に達也と付き合いだしたときに振られたゆかりちゃんの元彼だ。まだ好きだったんだね。
「俺も達也と別れた時点でコクれば良かったなぁ」
「ミスった?あたしもよ、いろいろとね。」
あの時ああすれば、今達也とあたしは付き合ってたかもってことはいっぱいある。
「でも…いいや。あたしの王子さまはどこかで絶対待ってるんだから!」
柄にもなく言う。悠斗に突っ込まれると思った。
沈黙がおりてきた。あれ…引かれすぎた?
悠斗は…真剣な目をしていた。
「目の前にいるかも。」
低くかすれた声で言う。
「やだぁ、またまた冗談を!」
「なぁ、亜希…俺ら、付き合わん?」
ん…っとぉ、、、あたし、今悠斗にコクられたぁー…??悠斗にーっ?!!
「うん!」
あれっしかも返事しちゃった。その瞬間あたしは心を決める。
「付き合おっ!!」