「向こう側」第三話-1
「おい、食べないのか?もしかして初めて見るもんばっかだから手がでないのか?」
そんなことを考えてボーっとしていたスグルはバッジに話しかけられて我にかえった。もうみんなは食卓に並べられているものを口に運んでいた。
確かにバッジに言われたとおりスグルが見たことないものであったが、ひどく驚くようなものはなくきっとこれはこういう味がするんだろうなという予想もなぜだかできた。
「これはなんていう料理なんですか?」
スグルは目の前にある肉の塊のようなものを指さしてバッジにたずねた。
「おっ!おまえなかなか見る目あるな。それはザラードの蒸し焼き。俺の大好物なんだぜ。一番おいしくいただくコツとしてはだな、いっきにかぶりつくことだな」
そう言われてスグルは目の前の肉にかぶりついた。思った通り鶏肉に似た味だったが予想外に肉汁が多く、口からあふれそうになったためそれを吸うように噛みちぎった。甘い肉汁と弾力のある肉がなんともいえず美味だった。
「うまいか?」
「はい、すごくおいしいです」
「そうだろそうだろ。もっといろいろ食えよ、若いんだから」
そういうバッジがこの中で一番食べてるよなぁとスグルは思った。
もちろんすべての料理がスグルの口に合うわけではなかった。例えば何も具が入ってない一見普通のスープは口に含むと、鼻に強烈につーんとくる感じがしたためスグルはそれ以上飲まなかった。
満腹になりみんなの手が止まったところで、ヴェラマージが口を開いた。
「さて、食事はもう済んだようじゃの。ではこれから具体的な話にはいるとするかの。まずはバッジ君の意見を聞こうかの。我々はこれからどうすべきだと君は考えておるのかね?」
「そうだな…『平和の塔』の制圧、あるいは秘密を暴くこと。スグルの話を聞いて確信した。あそこには重大な何かがある」
(え!?『平和の塔』?制圧?秘密を暴く?何言ってるんだ?)
スグルはいきなり訳が分からなくなった。そんなスグルなどお構いなしに会話は進む。
「ふむ、しかし正面から侵入するのなら最悪七年前の再来という事態になりうるかもしれんぞ?」
「さすがにただ単に正面から突っ込んでいくのはあまりに馬鹿げてる。そこでシュバインさんの出番だ」
「確かにシュバインならうまくやってくれるかもしれんな。それではいつ実行に移すのじゃ?」
「チャンスは一度だけだし綿密な計画を立てたりいろいろと準備したりする必要があるから時間はあればあるほどいい、と言いたいとこだが…スグルがこの世界に来た以上できる限り早い方がいい。もしスグルの存在がガラドの連中にばれたらまずいことになる。あいつらはエネルギーに貪欲だからな」
「うむ、おぬしの言うとおりじゃ。もしスグルがあやつらの手に渡ったら今よりもっと巨大な力を得るかもしれんからの」
ここでミスズがスッと手を挙げた。