「向こう側」第三話-5
「もしもし、スグルさんですよね?目を覚ましてくれませんか?」
「何だよ母さん、今週は試験休みだから学校ないって昨日あれほど言ったじゃんか…むにゃむにゃ」
「残念ですが私はあなたの母上ではありませんよ」
その言葉を聞いてスグルはようやく頭がさえてきた。
(そうだ、たしか俺はどっかの世界にとばされたんだっけ。
あれ?じゃあ今俺に話しかけてる人は誰?)
そう思って重たい瞼を開く。
するとスグルの目と鼻のすぐ先に見知らぬ男の満面の笑みがあった。
「うわあっ!!」
スグルは驚いて後ろに飛び退いた。
笑っている男は、どうしてスグルがそのような反応をするのかわからないといったかんじで、少し首をかしげた。
「どうしたの!?スグル!」
スグルの声を聞いてウィルが部屋に入ってきた。
「し…知らない人が俺の部屋にいるんだけど…」
スグルはその男を指差した。
「まったく…何やってるんですか?シュバインさん」
ウィルがその男にそう言った。
「え?この人がシュバインさん?」
「そうです、私がシュバインです。話は聞いてますよスグルさん」
シュバインが微笑みながら握手を求めてたので、スグルは戸惑いながらもそれに応じた。
「ていうかシュバインさん、帰ってくるの早くないですか?いつもはもっと遅いのに」
「いやいや、『下の世界』からの来客とマリーさんからの連絡を聞いて居ても立っても居られなくなりましてね。仕事を早めに切り上げてきたんですよ。ヴェラマージ殿に伺ったらこの部屋だと聞いて挨拶しにきたんですけど、どうしてスグルさんはこんなに驚いているんですかね?」
「目の前にシュバインさんの薄気味悪い笑顔があったら誰でも驚きますよ…さあ、自分の部屋に戻りますよシュバインさん」
ウィルはシュバインの服を引っ張って外へ連れだそうとする。
「えぇ!?ちょっとまっててくださいよウィル。私スグルさんに聞きたいことがたくさん…」
シュバインの言葉を聞く気すら見せずウィルは強引に体をもっていく。
ズル
ズル
ズル
「じゃあスグルさん、またお会いしたらいろんな話を聞かせてく」
バタン!
自分のセリフさえ最後まで言えずシュバインはウィルと共に姿を消した。
しかも最後の最後まで笑っていた。
(何だったんだろう…あの人。明らかにウィルより年上なのに威厳がないというか…変わった人だな)
今の茶番劇(?)のせいですっかり目が覚めてしまったスグルは、部屋の中を散策することにした。