投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

「向こう側」
【ファンタジー その他小説】

「向こう側」の最初へ 「向こう側」 11 「向こう側」 13 「向こう側」の最後へ

「向こう側」第三話-3

「ここの世界の地面はなんで光ってるんですか?」

「ああ、『下の世界』じゃ太陽ってもんがあるんだろ?簡単に言えばそれさ、この世界の地面の奥深くで渦巻いているエネルギーが地上に漏れてるんだ。そしてそれを源にしてこの世界は生きてるんだ。あまり詳しいことはわかってないけどな。『下の世界』のエネルギーがこの世界に流れ込んでる、なんて言う人もいるしな」

「さっきから不思議に思ってたんですけどなんで俺の世界の人達はここのことを知らないのに、ここの世界の人達は俺の世界のことを知ってるんですか?」

「やっぱそうなのか…そっちじゃここの存在は知られてないのか…その話をする流れでここの世界で起こった出来事も説明したほうがいいな。そうだな知っておくべきだ」

バッジはそう言うと深く息をついた。

「今からおよそ80年ほど前にひとりの男がどこからともなく姿を現した。どこか様子が変わっている男に人々は警戒心を露わにした。その男は自分は他の世界からやってきた者だと名乗った。
人々はとても信じられなかったが、その男が使う見たこともない道具やその男言動に次第に人々から疑念は消えていった。その男は学者らしく、こうして何度もこちらの世界に現れては研究をしたり文化を伝えたりしてきた。ここまで何か質問はあるか?」

「なんで俺のいる世界が『下の世界』なんて呼ばれてるんですか?」

「その男がどうやってこちらの世界にやってきたのか知る者はいなかったが、どっかの誰かがその男が突然地面から姿を現すのを見たと言った。だからその男がいる世界をいつしか『下の世界』と呼ぶようになったんだ。安直なネーミングだよな」

「えっと、『下の世界』からやってくる人っていうのは、その人だけだったんですか?」

「ああ、その男だけだった。その男は誰かのためというわけでもなく、自身の探究心だけで動くような人だったから、おそらくここの世界のことを『下の世界』にいる他の人々には言わなかったんだろうな。そんなわけでこの世界はその男のおかげで急激な発達をみせたわけだ。
その男のことを『救世主』とすら呼ぶ者もいるほど、この世界はその男から多大な恩恵を受けた。だがすべての人がその男を受け入れたわけじゃなかった。
この世界はいろいろな地区に分かれててな、それぞれが自分たちの領地を治めていた。だから思想におおきなズレが生じた。その中でも自分たちが世界の中心だなんて主張する地区があってな。その地区の名前はガラド、そこの連中にとってみたら、どこの馬の骨かもわからない奴にこの世界を我が物顔で歩かれるのは気に食わなかったんだろうな。
そして異変が起きた、今から約50年ほど前を境にその男は姿を現さなくなった。人々はもうその男は亡くなったのだろうと思った。俺はガラドの連中が絡んでいると踏んでいるんだがな。そしてまたいつもの生活が始まった。
だがそんな平和は長続きしなかった。
『下の世界』の者が現れなくなってから20年後、ガラドの連中が世界政府としてこの世界を統治すると言い出した。『下の世界』なき今この世界を導いていくのは我々だ、と。もちろん他の地区の連中は耳を傾けようともしなかった。しかしガラドは周りのことなどおかまいなしにその軍事力で強制的に支配する姿勢を示した。そうなると他の地区の者も黙ってはいられない。長きに渡る話し合いが続いた。しかしガラドの意見は変わらなかった。…そして今から七年前に戦争が勃発した。
ガラド対他のすべての地区、圧倒的に数に差があった。いくら軍事力に差があるとはいってもこれならば負けないだろう。誰もがそう思った。だがガラドの軍事力は予想をはるかに上回るものだった。『下の世界』の者が現れなくなってからの20年間はこのための準備期間だったのだろう。様々な兵器に統率された動き、それほど訓練していない他の地区の人々は為す術がなかった。
たくさんの人が死んだ。そして戦争が終結した。
まぁそして今に至るわけだ。今この世界はガラドにおびえながら生きている。それを何とかするのが俺達の仕事ってわけだ。
話が長くなっちまったな。今日はここまでにしておくか。また今度他のことも詳しく教えてやるよ」

「どうもありがとうございます。俺がするべきことってなんかあります?」

「いや、今のところは特にないな。しばらくこの部屋で休んでてくれ」

そう言ってバッジは部屋から出ていった。


「向こう側」の最初へ 「向こう側」 11 「向こう側」 13 「向こう側」の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前