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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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混沌とした世界(後編)-8

「……婚約の報告に、僕を呼び出したわけじゃないよね?」

ロンダール伯爵に王都の宮廷議会が、モルガン男爵が作り上げた名門貴族派閥が実権を握っていた情勢が、震災によって名門貴族の死亡により維持できなくなった事を説明した。
欠員を補うのは、ジャクリーヌ婦人の人脈の貴族たちで、軍備を拡大して辺境地域やニアキス丘陵をゼルキス王国との交渉ではなく、出兵して占領することで国土を広げる考えを持っている。
宮廷議会は、ゼルキス王国との戦争を推進する方向性に変わりつつある。

「ランベール王も騎士ガルドを将軍にして遠征軍を出兵したけど、たしか、集めた兵士の半分しか出兵できなかったんだよね」
「震災で住居を失った難民の平民たちは貴族よりも多い状況です。しかし、バーデルの都は居住地の建て直しにかかる費用が確保できていません」
「奴隷市場の収益は、そっちとうちで分けてるからバーデルの都には入らない。でも、他はみんな壊れたんだよね」
「遊郭と賭博場、あと納税する住人が暮らしていた居住地も」
「奴隷市場は、執政官ギレスとフェルベーク伯爵が修繕して再開した」
「その時にフェルベーク伯爵が7割、ロンダール伯爵は3割の収益の取り分で合意してバーデルの都には利益が落ちないようにした」
「女伯爵シャンリーが、遊郭や賭博場の建造と、市場や居住地の建て直しの費用をフェルベーク伯爵と僕に出してもらうかわりに、奴隷市場の権利を手放して売ったんだよ。だから震災後の再開準備の時に費用を僕にも出してほしいって、執政官ギレスから頼む手紙が来た。利益を半分ずつじゃなくて3割でいいから、バーデルの都の建て直しの費用は出さないっていう条件で合意したんだよ」
「フェルベーク伯爵がバーデルの都の建て直しの費用は出す。ロンダール伯爵は出さないという条件で執政官ギレスも合意したわけですね」
「そうだよ。だから、バーデルの都がボロボロなのを相談されても、僕は女伯爵シャンリーの時みたいに出資しない。新しい領主が、自治権を行使すれば奴隷の取引を廃止できる。奴隷市場を閉鎖しても出資しないつもりだ」
「ロンダール伯爵に、バーデルの都の建て直しに費用を出して欲しいという相談ではありません」

王都の宮廷議会に参入してきた貴族たちは、辺境地域やニアキス丘陵をターレン王国から開拓民と軍隊を移住させて開発させたい。

「その軍隊を出すとしたら、半分になった遠征軍を王都の宮廷議会は出兵させるように王へ嘆願書を上げるでしょう。しかし、王の直轄領であるパルタの都の遠征軍の残りだけが出兵したら、辺境地域とニアキス丘陵の利権は王の直轄領として貴族たちが恩恵を得られない。だからといって、ゼルキス王国と戦になれば最前線になる土地に自分たちが移住して開発する気もない」
「僕は辺境地域やニアキス丘陵の開発には興味はないよ」
「フェルベーク伯爵領の貴族や市民もそうなんです」
「だろうね、奴隷売買の利益もあるし」
「王都で生き残った貴族が自分たちのかわりに、辺境地域やニアキス丘陵に行って、開拓する移民と戦になれば戦ってくれる軍隊が欲しい」
「バーデルの都の住人は、移住できるとしたら行きたがるかな?」
「王都で生き残った平民たちも行きたがるかもしれません。食糧はパルタの都から調達できるでしょう」

ゼルキス王国と戦になれば最前線の辺境地域とニアキス丘陵へ行く兵士について行けば、食事にはありつける。

「また兵士を募集しても、前回の失敗があるから震災で困窮している人しか集まらなそうだけど」
「生き残った王都の貴族はモルガン男爵ではなく、ジャクリーヌ婦人の人脈の貴族たちです。ブラウエル伯爵やジャクリーヌ婦人と会ってみたいのですが、ロンダール伯爵に仲介してもらいたい。私は名門貴族の派閥の代表みたいに思われているし、フェルベーク伯爵と執政官ギレスは女伯爵シャンリーを排斥するとき、ブラウエル伯爵に協力を要請して断られています。ロンダール伯爵、できそうですか?」
「会って何を話すのかな。僕も同席したほうがいい話かな?」
「どちらでも。バーデルの都にフェルベーク伯爵領の貴族から兵士を駐留させる案が上がっているのです。たしかにそうすれば、奴隷市場の閉鎖は力ずくで防げるでしょう。フェルベーク伯爵領の貴族たちは、奴隷市場からの利益を守るために必死です。しかし、女伯爵シャンリーの後継者のエステルはフェルベーク伯爵領からの兵士を闇市潰しに使わせてくれと言ってくる可能性が高い」
「奴隷市場を閉鎖されたくないけど、女伯爵シャンリーがやらかした虐殺には加担したくないってわけだね」
「別にバーデルの都の領主には、奴隷市場の利益は落ちませんから、閉鎖しても困らない。今は闇市になっている市場から利益を得るために、統治する兵力が必要でしょう。だから閉鎖していない。しかし、虐殺すれば王都の貴族はブラウエル伯爵とジャクリーヌ婦人に王へ軍隊の強さを示すために、フェルベーク伯爵領の兵士を討たせるでしょう」
「ブラウエル伯爵領の兵士を、遠征軍と一緒に出兵させるために?」
「そうならないように手を打ちたい。バーデルの都の闇市を先にブラウエル伯爵の兵士で押さえてしまえば、虐殺は防げるでしょう?」
「それで王都の貴族の面目も保てるからってことかな。奴隷市場は閉鎖されるかもしれないよ」
「統治できなくなれば僕らに頼ってくると思います。1度だけ王都からの使者として会いましたが、女伯爵といってもまだ少女でした」
「ん、女伯爵エステルは少女?」

ロンダール伯爵とメイドのアナベルが顔を見合せた。

「ゴーディエ男爵は、バーデルの都をどうするかジャクリーヌ婦人と話し合いたいわけだ。できれば、フェルベーク伯爵領の兵士たちとブラウエル伯爵領の兵士たちを、王都の貴族の顔を立てるためだけに戦わせたくないから」
「ブラウエル伯爵と会えますか?」
「うん、僕らもゴーディエ男爵と一緒に行く。大丈夫だよ」


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