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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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ザイフェルトの修行と厄祓い(中編)-3

風呂上がりのアルテリスが、テスティーノ伯爵が話しているうちに足音を忍ばせて、ネコの歩みのようなしなやかさで背後に近づいていた。
じろじろ見るな、バレるからという顔つきで、ニッと端正な顔立ちに微笑みを浮かべている。
抱きつかれる直前にテスティーノ伯爵はバッと両手を上げ、アルテリスはテスティーノ伯爵の背中と胴体だけ抱きつかれていた。

「つかまえそびれちゃったか。伯爵様も温泉に入ってきなよ、さっぱりするよ」

アルテリスがテスティーノ伯爵の肩ごしに顔を出して話しかけていた。

「そうだな、呑み過ぎる前に温泉につかるとするか」

テスティーノ伯爵が腰を上げて、アルテリスと座から外れた。

「見たか、ザイフェルト。テスティーノは抱え込まれる前に腕だけ逃がしたぞ」
「普段から、あのふたりは修行しているのですか?」
「ふふん、じゃれあっておるだけだろうが、もう癖になっておるのだろうよ」

ストラウク伯爵が、ザイフェルトではなく廊下のほうへ目を向けた。すると、湯上がりの浴衣姿のフリーデが居間へ入って来た。

「俺も温泉に入ってくるよ」

ザイフェルトは、フリーデがストラウク伯爵と何か話があるのだろうと察して、腰を上げた。
フリーデの頭の上には、レナードの護りの精霊がひとり乗っかっていた。廊下を歩いて来たフリーデの気配よりも、精霊の気配をストラウク伯爵は感じていた。

「あの、フリーデさんも少しお酒を飲みますか?」
「はい、いただきます」

ストラウク伯爵はフリーデに炙った魚の干物をひと切れ渡した。

「よく噛んで食べてごらん。なかなか良い味に仕上がっておるよ」

マリカは酒の小壺に酒を汲みに行くふりをして、少しのあいだ座から離れた。ストラウク伯爵がフリーデに酒杯を渡しお酌した。

「なるほど。アルテリスはテスティーノに、べた惚れしておるからな。純粋なのは、ザイフェルトだけではない」
「ええ、伯爵様、私はふたりから、純粋さを見習わなくてはいけません」
「純粋すぎるのも、良いことばかりとは限らない。悩み傷つくと深手になりやすいものだ。だが、いい話が聞けた。ふふふ、今夜も酒が旨い!」

どうやらアルテリスが、過去も全部まとめてテスティーノ伯爵だからと言った話が、とても気に入ったらしかった。

(フリーデは精霊に好かれているな。ヘレーネがレチェを連れて歩いているようなものなのかもしれぬ)

「あっ、ここにいた!」

アルテリスが居間へやって来て、顔だけ出して、そのまま酒を呑んでいくのかと思ったが、ニヤリと笑うと、すぐにテスティーノ伯爵のアルテリスが泊まっている部屋へ戻って行ったようだった。

(そういえば、アルテリスはレナードの護りの精霊が視えるし、話もできると言っていたな)

フリーデに憑いていた護りの精霊をアルテリスが連れていったらしいのが、ストラウク伯爵にはわかった。

「レナードに呪詛をかけた者は、なかなかの手練れのようだ」
「何があればあのようなことになるのでしょうか……恐ろしいです」
「もしかしたら、レナードのような状態になって、自分で何もできなくなって死ぬというのが祟りなのかもしれぬ。レナードは、僧侶リーナという者に頼まれたアルテリスによって救助されたから、生き延びているが、救助されてなければ行き倒れとなっていただろう」
「彼を回復する方法はないのですか?」
「レナードにかけられた呪詛が解かれない限りは、回復は望めないだろう」

フリーデはリヒター伯爵にかけられた呪詛の話を、ストラウク伯爵に話した。

「呪われた人骨をレチェが喰った?」
「はい。もしやレナードにも、なにかそういった呪われた物なとがあるのでしょうか?」
「それはわからないが、レナードのそばにそうしたものが身近にあれば、護りの精霊が騒いで知らせてくれるはずだ」

リヒター伯爵がどのようなことが呪詛で起きたのか、ストラウク伯爵領の村人たちのように精力が衰えたのかと思い、フリーデにたずねてみた。
眠る時間が長くなっていく呪いだったことをストラウク伯爵は聞いて、ヘレーネの母親アリーダ、テスティーノ伯爵の前妻アカネが、数日間眠り続けて死んだのと同じことに、ストラウク伯爵は気がついた。

「私の場合は村人の男性たちが精力が衰えているが、なるほど。ヘレーネの母親アリーダは、ベルツ伯爵が受けるはずだった呪いの身代わりに、アカネはテスティーノ伯爵が受けるはずだった呪いの身代わりになったということだな。リヒター伯爵の呪いは、ヘレーネとレチェによって命を奪うまでには至らずに避けられたが、他の伯爵たちは呪われていないのだろうか?」

ロンダール伯爵には死の眠りの呪いが降りかかり、身代わりに愛人でメイドのアナベルが呪われていた。
元バーデルの都の伯爵であるバルテット伯爵は、ランベール王、正確には毒殺されて王位を簒奪されたローマン王の亡霊によって殺害されていて、若妻アリアンヌ、娘ミリア、子爵オーギャストの花嫁シュゼットの3人が、生き血を啜られ凌辱され、贄として犠牲となっている。

(マリカは犠牲にはしない。巫女である者の命を捧げ厄災を避けるのは、スヤブ湖の女神官の昔話の時代に終わった。必ずマリカも民も救ってみせる!)

ストラウク伯爵は、酒の小壺を持って戻ってきたマリカの顔を見つめた。

「マリカは、母親のアカネによく似ておるよ。テスティーノに似なくて本当に良かったわい。テスティーノと同じ顔をしていたら、私はマリカを妻にしていなかったかもしれぬ」

マリカとフリーデが、ストラウク伯爵が言うのを聞いてクスクスと笑った。

テスティーノ伯爵がフリーデにどんな話をしたのか、フリーデな頭に乗っかってアカネの墓まで行った精霊は、アルテリスに報告して、アルテリスの顔は恥ずかしくなって真っ赤になっていた。

(ああ、もう、伯爵様ったら!)


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