祓魔師の乙女たち-6
（マルティナ、私は貴女を……永遠に……愛して……い……ます）
エルヴィールとマルティナの気持ちを利用し、魔力を奪って怨霊となった蛇神のしもべの始末を、聖騎士ミレイユと魔剣ノクティスに頼み、マルティナに最後の言葉を伝え終えると、小粒の真紅の魔石は手の中から消失した。
聖騎士ミレイユと、参謀官マルティナから祓魔師たちは、エルヴィールが犠牲になったことや、人間から魔力を奪い力を増していくものであることを語るのを黙って聞いていた。
神聖教団の教祖ヴァルハザードが、身代わりの者が祟られて死ぬたびに、異界から知らずに解き放ってしまった大量の蛇神のしもべを討伐し続けてきた存在が、神聖教団の神官や祓魔師たちであることを、目の前の９人の乙女たちにマルティナは教えた。
「潜在する魔力を探知し、高めることで解放して肉体に巡らせることが常に維持できるようになれば、霊障を引き起こす蛇神のしもべに魔力の護りによって憑依されなくなります。魔石を肉体に融合することで、魔力の循環の流れを作り出します」
ドワーフ族の細工師ロエルは、魔石と蛇神の錫杖を融合させて賢者の石を錬成した。マルティナは魔石と祓魔師の乙女たちの肉体を融合させようとしていた。
この人体に魔石を錬成融合させることで融合された者は魔力が強化されると単純に考えた神聖教団の教祖ヴァルハザードは、のちに金で人を傭い、埋葬物から魔石を見つけてさせては、神官たちにヴァルハザードの肉体に魔石を融合させるように命じ続けた。ヴァルハザードには、子を孕ませることはできなかった。魔力が強すぎたせいである。潜在する魔力を越えて魔石を融合させ続けることで、不老不死を目指した。
魔石を服用したヴァルハザードを、全裸の神官の女性たちは愛撫する。ヴァルハザードの全身へ魔力を融合できるまで巡らせる。魔石が肉体に融合される瞬間、ヴァルハザードは絶頂して勃起したものから精液を噴き出して、神官たちを精液まみれにした。神官たちもヴァルハザードの肉体の魔力と自分の魔力が共振するように感じ、絶頂して陶酔していた。
快感に溺れたヴァルハザードが帝国の宰相の地位につき１０年間、平原の帝国の実権を握っていたが、魔獣化して討伐されたあと、神聖教団には姦淫や自慰を禁じる戒律が作られた。
魔石を人体に融合することのできる神官には、魔力を感じる感応力があり、相手と同じ快感を感じることが忘れられなくなって癖になってしまった者もいたからである。
マルティナが異界の門を破壊するため、教祖ヴァルハザードと神官たちがかつて行った禁断の秘術を祓魔師たちに施す。以前に聖騎士の試練から生還したが、自我崩壊していた姉のエルヴィールにも、小粒の魔石で融合を試みている。
その時、魔石にエルヴィールの意識が残り、肉体の死後に遺言を伝えることができた事実から、マルティナは祓魔師の乙女たちの肉体が異界へ移される前に、意識だけはこちら側の魔石に残して避難させることができると思いついた。
「私たち１０人が同じ１つの魔石を肉体に融合して、感応力で結びついている契約を行うことで、たとえ全員が異界に生きたまま肉体を連れ去られても、意識だけは、こちら側の魔石へ残すことができるはずです。ミレイユ様の魔剣ノクティスに１つの魔石を均等に１１個の破片にしていただき、１０個の破片は私たちに融合、融合せずに残した破片に、もしもの場合には、意識を避難させます。ミレイユ様だけが、なぜ異界から身も心も無事に生還できたのか、貴女たちは考えたことはありますか？」
ミレイユはノクティスと契約を交わしてひとつの命となっている。ミレイユはノクティスであり、ノクティスはミレイユでもあるのだった。ひとつの命のふたつの意識が剣や肉体を使っている。ミレイユとノクティスが融合することで、聖騎士の最終試練に挑んだ時の肉体と心ではない、新しい肉体と心で生成されて、こちら側の世界へ召還されてきた。
「私たちは、エルヴィールが夢で霊視させられた禍々しいものが支配する世界へ連れ去られるということは、あちら側の世界へ召還されると考えられます。私は聖騎士の試練でこちら側の世界へ召還されてきた挑戦者たちのバラバラになった遺体の部位だけが召還されてきたのを、何度も見ました。意識や肉体の他の部位はあちら側に奪われたまま召還されてきたということです。だから、こちら側に意識だけでも残すことができるようにすればいいと考えました。私たちの意識が避難した魔石の欠片をあちら側に召還しようと、執拗に敵も狙ってくるかもしれません。姉のエルヴィールは視力を奪われ、残りの魔力や肉体を狙って呼びかけられ続けました。しかし、私たちにはミレイユ様がいます。最後の魔石を守り切ってくれるでしょう。肉体と意識を離脱させ、辺境で私たちは血で契約したゴーレムを操り、辺境の異界の門を破壊します。しかし血の１滴であれ、あちら側に奪われば私たちは生涯にわたって、狙われ続けるでしょう。また聖騎士の試練に挑めば、蛇神の支配する異界へ転送される可能性は高くなるでしょう。神聖教団の教祖ヴァルハザードは、墳墓を盗掘するため自らがあちら側に狙われないように、神官の血で契約したゴーレムに盗掘させていたようです。ゴーレムが奪われたあと、たとえば猟犬が匂いを嗅ぎつけるように、血と魔力をたどり、神官たちはヴァルハザードの身代わりとして蛇神のしもべに祟られました。辺境の村人や僧侶リーナのように失踪した者もいたでしょう。また姉のエルヴィールのように欲情させられたり、悪夢で呼びかけ続けられるかもしれません」
出現した蛇神のしもべの祟りは、神聖教団の教祖ヴァルハザードの時代から続いている。
たとえ辺境の異界の門を破壊し尽くしたあとも、異界からの力に魅了され誘惑される者もいる。他の犠牲者を自分の命の身代わりに差し出すように要求される。
終わりがみえない人間に対する脅威に対し、戦い続ける覚悟を神聖騎士団の９人の乙女たちは問われていた。