祓魔師の乙女たち-4
マルティナは姉のエルヴィールの治療のために、エルヴィールと感覚を共有することで、エルヴィールの自我を短期間ではあったが回復させることに成功した。
神聖教団の初代教祖ヴァルハザードは、自分が呪われた時の身代わりとなるように、配下の者に秘術を施した。古代の王の墳墓は障気に満ちていて、ヴァルハザードは何度も呪われた。ヴァルハザードの身代わりとなり呪いを受けた者たちはすべて死亡した。
エルヴィールが、ダンジョンで大蛇を討伐したところ、蛇神の異界へ飛ばされた体験をミレイユは聞いていた。
淫獄に囚われている女性たちの痴態に、エルヴィールは人が持つ本能の業の深さを見せつけられている気がして、自らの目を潰してしまいたくなったと語った。ミレイユとマルティナは、エルヴィールが盲目となって生還した理由を知った。エルヴィールは、自らの視力を捧げて異界から生還したのである。
エルヴィールは、ミレイユに聖騎士の試練に挑むことを止めるように忠告した。ミレイユが試練を終えて生還した時にはすでに、エルヴィールは死亡していた。
呪いを分け合う秘術は、本来はヴァルハザードか自らの命を守るための法術であった。エルヴィールは妹のマルティナを道ずれにすることを危惧して、秘術を破り、自我崩壊することを選んだ。
自我崩壊して呪いによって人に霊障をもたらすだけ怨霊と化したエルヴィールだったものは、神聖教団の本拠地で僧侶になるための修行中だった少女たちや、神官の女性たちの心に、強い影響を及ぼした。神官の女性たちに少女たち強い恋愛感情を抱くようになり、また神官たちの中には誘惑に従い禁じられた行為に走ってしまい、罪の意識から少女と一緒に自死する者まで出る騒ぎとなった。
エルヴィールは、異界で蛇神のしもべが男性の性器のような形状となり、囚われている女性たちの膣内や肛門に侵入して犯していたことの嫌悪感や、姉の欲情を鎮めるためにマルティナが愛撫して慰めた愛着の記憶が残っていたからか、生きている者を死へと導くため、少女たちの恋愛感情を利用する怨霊と成り果てた。
取り殺した犠牲者たちの亡霊は怨霊に吸収されて、怨霊は影響力を増していく。
異界の門が開く前に、ミレイユがエルヴィールの怨霊を消滅させたことで、神聖教団の騒ぎは収拾された。
障気に満ちている辺境へ踏み込む9人の祓魔師の乙女たちが受ける霊障を軽減するために、マルティナは姉のエルヴィールに施した呪いの影響を術者が身代わりで受ける秘術を再び試みることにした。
それは法術を施した魔石を9人の乙女たちの体へ仕込んでおくものであった。
マルティナは術者として9人に仕込まれた魔石に力を与え、障気によって呪われた時には解呪を試みる。
9人に仕込まれた魔石が呪いの影響が強すぎて消滅すれば、術者は甚大な被害を受けることになる。
「貴女たちが何も護りもなく異界に取り込まれてしまえば、肉体と心はこちら側の世界から消失してしまうでしょう」
マルティナの命がけの護りの秘術で、9人の祓魔師を護りつつ魔力を強化する。
姉のエルヴィールの身代わりの秘術による治療の試みは、エルヴィール自身が望み魔石を大量の喀血をともないながら吐き出し、護りの術を放棄した結果、姉のエルヴィールだけが、自我崩壊した状態で死亡した。
「私たちが1人でも生き残れば、完全にこちら側の世界から消滅することはありません。とはいえミレイユ様には、この護りの秘術は施すことはできません。魔剣ノクティスと契約を交わしているため強い護りがあり、魔石との契約を受けつけないと思われます」
神官のマルティナと聖騎士候補の9人の乙女たちが同化の契約を結び、一緒に潜在する魔力を探し当て、解放へ導くことでさらに強化し、蛇神のしもべに対抗する手段とすることを提案した。
姉には口移しで小粒の魔石を服用させ、マルティナはエルヴィールと交わり、潜在する魔力を解放させた。
9人の乙女たちが受ける霊障の欲情を、マルティナが潜在する魔力を解放して護りを強めるほど軽減するだけでなく、もしも異界へ引きずり込まれる前に犯された時は、乙女たちの肉体に同化させた魔石の魔力を引き出せば、蛇神のしもべを消滅させることができる。
「貴女たちに対する障気の影響の軽減と純潔を奪おうとする蛇神のしもべを撃退する方法は、これでなんとかなるでしょう。しかし異界の門を破壊するための魔力の強化が必要です。護りの術では、異界の門を破壊するには力が足りません」
魔力の強化は、神聖教団の戒律を遵守してきた聖職者である9人の乙女たちにとって、思いがけないものだった。
抑制することを教えられ、純潔を守る禁欲を受け入れてきた乙女たちに、激しい快感と絶頂をともなう魔力解放を教えるというものだった。
ミレイユは、異界で美少女の姿のノクティスと交わり、初めての絶頂を経験したことで、自らの潜在する魔力を解放することができた。
神聖騎士団の祓魔師の乙女たちは、潜在する魔力を解放することを教えられていない。これは、神官のマルティナが彼女たちに教えなけれはならない。
魔剣ノクティスと契約している聖騎士ミレイユが、神聖騎士団の乙女たちに交わろうとすれば、魔剣ノクティスは嫉妬のあまり、乙女たちを刃でズタズタに切り裂き、抹殺しかねない。
姉の治療のためにマルティナは、姉のエルヴィールと教団の戒律では禁じられている淫らな交わりをあえて行った。
マルティナは、神官となるときに、淫らな交わりによって潜在する魔力を解放するための方法を、門外不出の儀式として教えられた。
瞑想によって自らの魔力を感知することができる者もいるが、それを体中に巡らせるのは感知するだけでは難しい。
命と魔力を解放させ体に巡らせて奪うため、蛇神の淫獄では蛇神のしもべが女性たちを陵辱し続ける。女性たちの魔力を絶頂によって解放させている。
エルヴィールが霊視した異界について、マルティナは考え続けてきた。