妖国記-4
アルテリスが魔力を快感として感じ取るほどに、鏡に光が反射するように、同調しているテスティーノ伯爵には、快感が返される。アルテリスが、賭をした男性たちとの交わりで物足りなさを感じていたのは、心が強く同調できなかったからであった。
テスティーノ伯爵は、射精した瞬間、制御しきれず強い魔力を放出してアルテリスを絶頂させた。同時にアルテリスの感応力で同調しているために、テスティーノ伯爵は、今まで感じたことがない絶頂感に襲われた。
しばらくして、テスティーノ伯爵が身を起こし、ハッとしてアルテリスを見つめた。もの凄く気持ち良かったが、疲労感から思った以上の魔力が放出されていたことに気づいた。
「アルテリス、大丈夫かっ?!」
「んあっ、ふにゅぅ……はぁ〜っ、なんかすごかった……伯爵様、もう一度、交尾……する?」
アルテリスは恥ずかしいからか、目を合わさないように横向きになるとテスティーノ伯爵に背中を向けたまま言った。
問いかけてくるアルテリスの赤髪をそっと撫でるつもりで、ほっとしたテスティーノ伯爵が、うっかり敏感な獣耳にふれてしまった。
ピクッとアルテリスが反応した。
「ちょっ……やぁんっ!」
「あっ、すまん、耳はくすぐったいみたいだね」
「んふふ、伯爵様にさわられるの、気持ちいい。でも、いきなりだと、びっくりしちゃうよ。あたいの耳が気になる?」
「ああ、ふさふさの尻尾も気になる。さわっていいか?」
「もぅ、しょうがないな〜、引っ張ったりしたらダメだからな」
「撫でるだけだ。おおっ、この尻尾は、ずっとさわってたいぞ!」
「んあっ……伯爵様、あたいの胸と尻尾、どっちが好き?」
「どっちも好きだ。アルテリス、選ばないとダメか?」
「もう一度してくれるなら、さわってもいいけど」
テスティーノ伯爵は、生まれて初めて本気を出すことにした。アルテリスにキスをして、その体を抱き寄せる。テスティーノ伯爵は、返答を言葉でなく態度で示した。
恥じらう乙女を手込めるが如し。
テスティーノ伯爵は、アルテリスとの交わりから、さらに新たな境地に至ったらしい。剣の奥義を伝えた秘伝書には、そう書き残している。
テスティーノ伯爵とアルテリス一行が、ハンターのレナードの治療の為に、バーデルの都の南西に位置するストラウク伯爵領を目指し旅立ったのち、バーデルの都では、ランベール王がバルデット伯爵と子爵オーギャストを捕縛している。
本来は風葬地であったいわくつきの土地を鎮めるために、バーデルの都は作られた。バーデルの都そのものが墳墓のような役割を持つ建造物である。また、バーデルの都を訪れる人々によって、長い期間をかけ、土地をたくさん踏ませることで、地中の祟るものを祓わせるという呪法を施されていた。
バーデルの都を獣人娘のアルテリスが訪れた時、強い感応力を持つため頭痛や悪寒を感じて、直感的にバーデルの都に長居したくないと思った。祟るものは鎮められているが、今でも完全に祓われたわけではなかった。
ターレン王国は、北方の蛇神の都だった王都トルネリカと南方の祟る風葬地だったバーデルの都を、パルタの都によって遮断しているともいえる。
それぞれ伯爵たちは、もともと祟りがある土地を鎮めるために選ばれた術師たちの末裔である。しかし、その力や知識を失わずに受け継いでいる伯爵は、残り少ない。
バーデルの都を統治していたバルデット伯爵は婿養子であり、アルテリスのような強い感応力も、テスティーノ伯爵のような念力による祓いの剣技の力も持ち合わせていなかった。
バーデルの都で祟りが起きないように、もしも神聖教団の神官たちが浄化するとすれば、北東の方角にあるロンダーク伯爵領と南西の方角にあるストラウク伯爵領に大教会を建て毎日、浄化の為の祈りを捧げ、バーデルの都は作らずに立入禁止の禁足地とする結界を張っていたにちがいない。北東の伯爵領は鬼門、南西の伯爵領は裏鬼門だからである。また、ターレン王国の各地に教会を配置して、信者を巡礼させることで結界を強化するだろう。
古代の平原の王族の墳墓は莫大な財宝だけでなく、人柱として墳墓を作らせた人足たちが生き埋めにされている。祟られた場所でもあった。
墳墓を発掘し財宝を奪うことで資金源とした神聖教団の教祖ヴィレームには、自分だけは生き残るために、祟りを浄化する必要があった。
女伯爵シャンリーは自らの呪力を高めるために、バーデルの都で暴徒の虐殺を行った。生贄を捧げ、浄化するのとは真逆の手段で利用しようとした。
蛇神を信仰する神官たちの呪術に対抗するため、パルタの都を建造した術師たちは、風葬地にもバーデルの都を建造したが、蛇神の都と同じように訪れる人が地を踏むことによって短期間では浄化しきれない祟りの力を鎮めるという考え方は共通している。
ターレン王国の各地から人を集める宮廷議会によって政治を行おうとした忠臣ヴィンデル男爵は、強い感応力や念力による祓いの力は持たない人物だったが、結果的に王都トルネリカに潜む祟りの鎮めを行ったといえる。
モルガン男爵は、南方の伯爵やその血縁である小貴族たちを、実権を握るため宮廷議会から排斥した。そのため、王都を訪れる人が減ったために、祟りを鎮める効果はかなり削られた。
この隙にシャンリーが辺境で村を焼き討ちさせたことで、蛇神の祟りの力が作用して、ランベール王は、弑殺された先代のローマン王の亡霊に憑依された。
かつて蛇神の神官たちと戦い、土地に潜む祟りを鎮めようとした者たちの国家鎮護の仕掛けが、こうして破壊されようとしていた。
祟りを鎮めるために、ゼルキス王国がエルフ族や神聖教団と協力したように、ターレン王国では、砂漠から来たとされる褐色の肌を持つ流浪の民の協力により、蛇神の神殿のあった土地と風葬地の祟りを鎮めてきた歴史がある。
国家鎮護の術師でもある者たちは、ターレン王国の伯爵の爵位を授けられ領地を治めてきた。